「寝ても疲れが取れない」その原因について、ストレスとホルモンの関係から医師が解説します。
「副腎疲労」って何? まずは医学的な立場から
「寝ても疲れが取れない」「朝起きられない」「慢性的にだるい」こうした症状に対して、ネットや一部の代替医療では“副腎疲労(adrenal fatigue)”という言葉がよく使われます。
提唱者の説明では「長期ストレスで副腎がヘトヘトになってコルチゾールが出なくなる」とされていますが、主流の内分泌学会や大病院の見解は異なります。
現時点で“副腎疲労”を裏付ける十分な科学的根拠はなく、正式な診断概念としては認められていません。
実際、専門家は慢性的な疲労の原因を見つけるために、甲状腺機能、貧血、うつ、不眠、睡眠時無呼吸、慢性疾患など別の病気をまず調べることを勧めています。
「それでも疲れが取れない」よくある具体例と考えうる本当の原因
以下は臨床でよく出会うパターンです(名前は仮名です)。
睡眠は取れているはずなのに日中ずっとだるく、集中できない。検査で貧血と鉄欠乏が見つかり、鉄補充でかなり改善した。
シフト勤務で睡眠のリズムが乱れ、慢性的な睡眠不足とメンタル不調に。睡眠衛生の改善と勤務調整で症状が軽くなった。
「副腎疲労」と診断されたと聞いてサプリを大量に飲んでいたが、実は甲状腺機能低下症が隠れており、甲状腺ホルモン補充で元気が戻った。
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このように、疲労の原因は多岐にわたり、単に「副腎が疲れている」とする短絡的な説明では見落としが生じます。系統的レビューでも「副腎疲労という概念を支持するエビデンスは乏しい」と結論されています。
実務的な対応:まずは安全で効果的なステップを取ること
基本的検査を受ける
問診で睡眠・仕事・薬剤・精神的ストレスの状況を聴き、必要に応じて血液検査(貧血、甲状腺、電解質、炎症マーカーなど)や睡眠評価を行います。
副腎ホルモン(本当に疑わしい場合)は専門医が適切な検査で評価します(※本当に低下している「副腎不全」は別の確立された病気です)。
生活習慣の見直し
規則的な睡眠リズム、カフェインと飲酒の制限、適度な運動、栄養バランスの改善は疲労改善に効くことが多いです。
短期的なストレス対処としてリラクセーション(深呼吸、マインドフルネス、ゆるい散歩)も効果的。
医療の介入
うつや不安、甲状腺疾患、睡眠時無呼吸などが見つかればそれぞれの標準治療を行います。副腎機能に関しては、信頼できる検査と専門医の判断が必要です。
サプリや「アドレナルリペア」系商品の注意:市場には根拠の薄いサプリや、時に成分管理があやしい製品があります。
無断でステロイド様物質を含むものも報告されており、自己判断で大量に摂るのは危険です。まずは医師に相談を。
まとめ
「寝ても疲れが取れない」感覚は本当につらいし、生活の質を大きく下げます。
ただし、その原因は多様で、“副腎疲労”という単一のラベルで片付けるのはリスクがあります。まずはしっかり問診・基本検査を受け、医師と一緒に原因を探し、生活習慣と精神面の両方に手を入れるのが現実的で安全な近道です。
サプリやネットの情報に飛びつく前に、まずはかかりつけ医や内分泌の専門医に相談してみてください。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。