「朝起きたときからもうヘトヘト」「ちょっと立っているだけでフラッとする」——そんな訴え、決して我慢しないでください。鉄欠乏性貧血の初期サインについて医師が解説します。
立っていられないほどの疲労感 — 鉄欠乏性貧血ってどんな病気?
女性は月経や妊娠、出産、ダイエットなどで鉄が不足しやすく、世界中で若い女性〜中年女性に鉄欠乏や鉄欠乏性貧血が多く報告されています。
鉄はヘモグロビンの材料で、酸素を全身に運ぶ役目を担っているので、鉄が足りないと「全身が酸欠」状態に近くなり、倦怠感、動悸、息切れ、めまい、集中力低下などが出やすくなります。
放っておくと仕事や子育てのパフォーマンスが著しく落ちることもあります。
初期サインの見落としやすさと、実際の事例
鉄欠乏は「貧血になる」前から具合が悪くなることが多く、検査でヘモグロビンは正常でも貯蔵鉄が少ない“かくれ貧血”(フェリチン低下)の段階で疲労や集中力低下が出ます。
月経が多めで、昼休みにソファで眠ってしまうほど疲れやすかった。健診でフェリチンが低く、経口鉄剤で数カ月後に体力回復。
練習で息切れが増え、タイムが落ちた。ヘモグロビンはぎりぎり正常だがフェリチンが低く、補充でパフォーマンス復活。
立ちくらみと爪の割れ、味覚の変化を訴えたが「疲れ」と片付けられていた。精査で鉄欠乏が判明し治療で日常生活が楽になった。
典型的には爪の変形(スプーン爪)、口内炎、冷え、頭痛、注意力低下なども合併します。
検査では血清フェリチンが診断に重要で、最近の研究やガイドラインではカットオフを30ng/mL前後にする考えも示されています(施設や炎症の有無で判断が変わります)。
実践的な診断と治療の流れ — まずはここから始めよう
まずは血液検査を
ヘモグロビン(Hb)だけで安心せず、フェリチン、総鉄結合能(TIBC)、TSAT(鉄飽和度)をチェック。炎症があるとフェリチンが上がるので、その点も医師と相談を。
食事と生活の見直し
鉄含有食品(赤身肉、レバー、魚、ほうれん草など)とビタミンCの同時摂取で吸収アップ。お茶・コーヒーは吸収を阻害するので食後すぐは避けると◎。
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鉄剤の使い方
経口鉄剤がまずの選択。伝統的な処方は1日あたりの元素鉄量で調整されますが、最近は副作用(胃腸症状)を避けるため低めの毎日投与や隔日投与も有効とされています。
治療はヘモグロビン正常化後も数カ月継続して貯蔵鉄(フェリチン)を回復させます。
経口でダメなら静脈(IV)鉄
消化器疾患で吸収不良がある場合や経口で副作用が強い時、あるいは速やかな回復が必要な場合はIV鉄が選ばれます。
病院での注射で、短期間に症状が改善することも多いです(適応や安全性は医師判断)。
原因の検索も忘れずに
月経過多、消化管出血、寄生虫、吸収障害(セリアックなど)、頻回の献血など、鉄が減る原因をきちんと探すことが大事。特に閉経前の女性は月経関連の出血が主要因です。
まとめ
立っていられないほどの疲労感は“ただの忙しさ”とは限りません。
鉄欠乏は見落とされやすいけれど、検査で発見でき、治療で確実に改善することが多いです。
まずはかかりつけ医に「最近すぐ疲れる」「立ちくらみがある」「爪が割れる」などの具体的な症状を伝えて、フェリチンを含む血液検査をお願いしてみてください。