スペイン料理のシェフを務める夫と、デザイナーの妻がイメージしたのは“全部がつながっている家”。建坪14坪の開放的な空間が誕生した。
ながれが感じられるように
スペイン料理のシェフを務める夫と、デザイナーの妻。昨年秋、のどかな東京郊外に建坪14坪ほどの角地を見つけ、松島さん夫妻は新居を建てた。
「土地を見つけてから設計事務所を探し、その中でいちばん私が求めているものに近いミハデザインに依頼することにしたんです」。
設計の仕事に携わってきた妻が、家づくりを主導した。
「ほとんど私の希望で進めました。夫が口出しをしたのはキッチンだけなんですよ(笑)」。
妻の理想は“仕切りが少なく、全部がつながっているような家”。1歳の長女が1階のリビングで遊んでいても、2階のワークスペースからその様子を感じ取ることができる。そんな見通しのいい家が希望だった。
南側のテラスに面した大きな開口から光が差し込むリビング。2階の床の高さに差がつけられている。
厨房のようなキッチンがリビングと一体に。正面上はワークスペースから子ども部屋に上がる階段。
抜けが連続していく
「松島さんが思い描く家は、生活をベースにしたフラットでナチュラルなものでした。大まかなことを伝えられた以外、細かい指示はなくスムーズでしたね」というのは、ミハデザインの光本さん。
“全体がつながった家”を実現するために、光本さんが考えたのは、床のレベルを違えながら、2階の天井までつなげていくこと。吹き抜けになったリビングの上に生活スペースが積み上げられていくような構成だ。
「まず1階のリビングから2階のワークスペースに空間が抜け、さらに2階の子ども部屋も少しレベルを上げることで、抜けが全体をぐるっとつなげていきます」。
敷地に面した通りとの距離も、どうカバーするかを思考した。
「車や人が通ったときの家との距離感が気になっていました。そこでプランターのあるテラスを1階の南側に設け、テラスに面して大きな開口を設置しました」。
北側の2階にも開口が設けられ、光が南から北に、家の中を通り抜ける。
「この光の通り道があることで、空間が外までつながっていきます。外まで含めた大きな空間の中に、レベルの違う床が載っかっているイメージです」。
25坪ほどのコンパクトな一軒家ながら、つながりと外部との一体感が、開放感を感じさせる。
2階ワークスペースからリビングを見る。ここから家族の様子を見守ることができる。
2階のワークスペース。中央の机と本棚を挟み、左右対照に設計されている。
リビングから上を見上げる。仕上げ材を使わないことで自然な風合いを感じさせながら、コストもカット。
木の温もりを味わう
ミハデザインともうひとつ考え方を共有していたのは、空間を包む素材感。
「均質でまっさらな感じには違和感があったんです。子どもが絵を描いたり、だんだん汚れていったりしても気にならない。そういう家にしておきたかったので、仕上げ材はあえて用いず、木を現しました」(松島さん)。
無垢のオークの床に壁はラワン、天井も建材をむき出しに。
「あとはリビングさえ広ければ、個室は小さくてもいいとお伝えしました」。
2階のワークスペースとベッドルームのあるフロアから、階段を数段あがってアクセスする子ども部屋は、中央で区切ればもうひと部屋設けることもできる。その際には、現在ある階段と反対側にもうひとつ、左右対称に階段を設けて、入り口をつくることも計算されている。
ここで図面をひいたり、パースを描いたりする間も、1階や2階子ども部屋の気配を感じることができる。
ベッドルームもシンプルに。昔から持っている和家具を活用。
玄関とリビングの間に階段を設置。空間を塞ぐことなく緩やかに分けている。
階段下を利用して土間の収納に。キッチンにも通り抜けられて動線がいい。
リビングの壁は、家族の思い出の写真を飾るコーナーに。これからどんどん増えて行く予定。
いずれはテイクアウトのお店も
「私のリクエストはキッチン台の高さとシンクの大きさ、コンロの火力などの設備です。調理のしやすさを優先しました」。
夫のオーダーで造ったステンレスのキッチン台の下は、収納を設けずオープンに。こうすることで厨房のように調理器具などが取り出しやすくなる。毎週末、ここで食事の準備をするのは、夫の担当なのだそう。
「いずれはテイクアウトの弁当屋などもできたらいいなと思っているんです。そのために、小窓を設けてもらいました」。
キッチンの一角は将来のプランにも対応が可能。今は、1歳の長女が自然の風合いに包まれたリビングで自由に遊ぶ。光が通り抜ける開放的な一軒家は、これから変化を続けていく。
使い勝手を考えたキッチン。子どものために、これまで観ることがなかったテレビを、キッチン台の下に置いた。
スコーンなども、よく夫が焼いて家族で味わうそう。