階段室/コアを軸にして回遊できる加藤邸の2階。仕切りを設けずひとつながりになっているため、子どもたちが自由に走り回ることのできる空間になっている。
静かで子育ての環境に良く緑が多い場所――これが加藤夫妻が敷地を探すときのコンセプトだった。現地を見て即決したという敷地は、歩道と合わせて幅12mほどの道路に面しているとはいえ気になるような騒音もなく、周囲には緑もあって子育てには良さそうな環境にある。
さらに加えて角地で敷地もゆったりめ、隣家との距離もある程度確保できるという敷地条件の中で、加藤邸の家づくりが始まった。
ダイニングからリビングの方向を見る。斜めに架けられた垂木が天井にダイナミックな印象を与えている。
コアの階段室を見る。右のリビングからはコアに開けられた開口を通して空を見ることができる。
周囲の家のリビングが1階に置かれていて、2階を外部に対して開いても目線が合わないこともあり、リビングを2階にしてコーナー部分にガラス面を広めに取った開放的なつくりとした。
2階をリビングにした理由はもうひとつあった。「2階にもっていったほうがリビングが広く取れると言われたので、そうすると子どもが走り回ったりと自由に使えるんじゃないかと思った」と奥さん。出来上がった空間も、コアの部分に階段室をつくってその周りをダイニング、リビング、スタディスペース、キッチンがぐるりとめぐる構成になっていて、コア部分以外には仕切りとなる壁のないひとつながりの空間ゆえ、奥さんの思った通りに、子どもが自由に走り回ることのできる空間になっている。
リビングスペース。加藤さんはこのソファがお気に入りの場所。奥さんは、息子さんと奥のコーナー部分でよく遊ぶという。左の開口からは近くを走る道路を通して遠くまで視線が抜ける。
コアを軸にして回遊できるこのプラン上の特徴に加え、高さのある天井も目を引く。「木の家がいい」とも伝えていた加藤夫妻は、木の構造材をそのまま見せるアイデアにも前向きに応じた。「最初は梁だけ出そうという話もあったんですが、垂木もすべて見せようということになりました」と奥さん。
3人でチームを組んで設計にあたった建築家の石村さんは「垂木も特徴的で、ふつうはまっすぐに架けることが多いんですが、コアの周りをぐるりと回る平面のため、天井のほうも動きをつけようということになりました」と話す。しかし、通常の架け方と比べ斜めに架けると費用がかさむ。「コストの減額検討時に加藤さんに確認をしたところ“動きの感じられる方がいいと思うのでこのままやりましょう”と言っていただいた。空間のアクセントになっているので実現できてとても良かった」という。
スタディスペースからリビングの方向を見る。右の壁面にトイレと収納が仕込まれている。
リビング/スタディスペースのコーナーからも道路を通して視線が抜ける。
建物の1辺の端から端までキッチンの天板が延びる。気持ちよく料理ができるだけでなく、そのほかの用途にも使用できて便利だ。
キッチンの置かれたコーナーからも視線が遠くへと抜ける。キッチンでの作業時に外が見えるので気持ちがいいという。
友人に「“美術館みたいだね”ってほめられることがある」と奥さんが話すのがシルバーに塗られた吹き抜けの階段室。夫妻からのリクエストにはなかったものだが、この空間も加藤邸の大きな特徴になっている。
全体がシルバーのため、トップライトから落ちてくる光を壁面の途中に開けた開口から2階の空間へともたらし、また1階へも光を供給する。「加藤さんがバイクがお好きなのでメタリックな感じもいいのではないかとか、反射するため壁っぽく見えないというのもありました」と設計意図を語るのは石村さん。共同で設計にあたった根市さんは「せっかく空に開いている場所なので、いろんな場所から空を見たりできたらいいのではと考えました。それと、シルバーの壁に空が鈍く映り込むので、天候の変化によって時間の流れが感じられる」と話す。
素材感のある戸と素材感の薄い階段室壁面とのコントラストが面白い。
ダイニング側から階段室を見る。右の小さな開口はトイレのもの。
階段室を見上げる。トップライトから落ちる光が2階の各スペースにも光をもたらす。
階段室から見る。左が玄関。トップライトからの光で1階の中心部分も十分に明るい。
「1階に関しては、子ども部屋を2部屋と主寝室、あと広いウォークインクローゼットがほしいというリクエストを出しました」と話す加藤さん。これに応じて設計側が考えたのが、全体を9グリッドの平面にして引き戸の位置を自由に変更できるというものだった。「その時々の生活のスタイルに合わせてフレキシブルに変えられるように自由に仕切れるつくりにしました」(根市さん)
広めの土間にした玄関にはガラス戸を通してバイクや自転車が置かれているのが見える。このようにしたのは、ガレージ兼用の玄関にすれば面積的な面でも合理的でいいし、玄関を閉じたつくりにするのではなくガラス戸にすれば、窓として使えて光も採り入れることができるとの考えから。
手前のスペースには戸は付けられるが今ははずされている。戸を付ける場所を変えることで、ライフスタイルの変化にフレキシブルに応じることができる。右がウォークインクローゼット。