「年齢を重ねたら、セックスはしないもの?」答えはNO。いくつになっても楽しく、健やかな性生活を送りたいと思うのは、当然のことです。だけど実際は、年齢による体の変化などで若い頃のようにセックスできない、セックスが痛い、セックスが怖いといった悩みも少なくないようです。性の健康に関するアクティビストでありメノポーズカウンセラーの小林ひろみさんに、40才からの性生活をより良いものにするためのアドバイスをいただきます。
人の体は生まれた時から最期を迎えるまで、ずっと変化を続けています。子供の時はそれを成長と呼びますが、大人になると老化と呼ぶことも。でも私は世間が老化と呼んでも、ただの体の変化と呼んでいます。
「"若い頃の私"をキープできない」のはいけないこと?
大人になって変化に一番気づくのが40代ではないでしょうか。私は先日50歳になりましたが、自分の40代を振り返ると、最初はこんな変化が起きました。月経はあるけど、周期が不規則。若いころから瘦せ型の体型でしたが、食べる量がいつも通りでも体重が増え、お腹もぽっこり。自慢だった細い二の腕も、いつの間にかたるみが。目に見えて体の変化を実感しました。顔のシミや肝斑が目立ち始め、髪の白髪の量は日増しに増えていきました。元気だけが自慢だったのに、体重の増加、見た目の変化のせいか、体力や気力をどんどん失っていきました。
年齢とともに体が変わっていく photo by Adobe Stock
今まで着ていた洋服もぽっこりお腹のせいで入らない。新しい洋服を買いに行っても、ウエストのサイズで服を選ぶようになりました。自分の見た目の変化が許せなくなり、なんとなく通っていたスポーツジムに相談して、食生活の指導も含めたダイエットを始め8カ月かけて体重を10kg落としました。見た目の変化による過剰な不安から、増えた分以上に体重を落としてしまいました。体脂肪は減り、筋力も増えてスレンダーなボディを手に入れましたが、貧弱な胸にこけた頬。40代の自分の顔にミスマッチな体型であることに気づいたのでした。
自分の見た目が許せなくなったのは、痩せている若いころの見た目を保てないのはいけないことである、という潜在意識からでした。変化してしまった自分を他人がみたら、まるでケアをしていない、だらしないと指摘されているかもしれない。体重が増えたときは、自分がダメ人間になっていると、高額を投資してダイエットをしたのです。
運動を頑張っても、女性ホルモンは増えません。からだの中は閉経の準備が着々と進み、寝付けない、夜中に何度も目を覚ますなど睡眠トラブルや気力や集中力が維持できないなど更年期症状が悪化していきました。40代前半は、体力や気力が落ちていたのは、太ったせいと思っていましたが、閉経に向かって女性ホルモンの分泌の減少が始まりっていたからでした。徐々に起き上がるのが困難になり、ホルモン補充療法を始めたのでした。
ホルモン補充療法のおかげで、睡眠トラブルが改善され、ダイエットをやめても体重増加に歯止めがかかりました。これはエストロゲンが脂質代謝を支える役割をしているので、エストロゲンを補充したことにより、私の場合はある程度収まりました。昔のような量は食べないまでも、栄養バランスの良い、そこそこの量の食事に戻し体重を数キロ増やしベスト体重に戻して健康維持をしています。
年齢による体の変化、なぜ否定的に捉える?
私は潤滑ゼリーやデリケートゾーンの商品の販売業を10年以上営んでいますが、創業時から並行して続けているのが、性の健康に関してのアクティビストとしての活動と学びです。学んだことのひとつに「互いの違いを認める」「尊重しあうこと」があります。分かりやすく言うと「みんな違っていい」という発想、その人らしい生き方を認めるということです。性の健康とは、ジェンダー平等や性の多様性を指しますが、何もこれはジェンダー問題に限ったことではなく、年代の変化における違いを認めることも大事なのではないかと考え始めました。そこで自分の態度を振り返ってみました。体の変化で起きるホルモン分泌の減少で起きた体重の増加、シワやシミが顔にできるのは自然なことなのに、その変化に私自身は否定的でした。それは自分自身だけに限らず、おそらく同年代の他者の変化に対する見方も同様に否定的だったからではないかと気づいたのです。
性的な悩みに関してお話すると切り離せないのが、ここでも女性ホルモンであるエストロゲンです。エストロゲンは体中の健康を支えているといっても過言ではありませんが、その役割のひとつに肌や粘膜の潤いや弾力を維持があります。閉経に向かってエストロゲンが減少すると顔にはほうれい線や目じりにシワがめだち始めるように性器も乾燥が進行するとシワっぽく縮みます。腟壁の弾力や潤いも低下し、性交痛や少量の出血を引き起こすがあります。これも自然な変化なのですが、日本では年をとるとセックスをしないという刷り込まれたイメージがあるからか、年だからと落ち込む方も少なくありません。
潤滑ゼリーを使うことは特別なことじゃない
急なからだの変化で、右往左往する40代。目に見える変化で自信をなくす人、努力して時間とお金を費やしてしまう人。私が自分の経験と専門の勉強から学んだことは、「変化を受け入れること」でした。この年代向けの商品を売る広告はからだの変化の否定的な表現が見られますが、あまり振り回されないことです。もちろん健康維持のダイエットは構いませんし、好きで美容に力を入れるのは良いと思います。ただ、自分の変化を受け入れる選択肢もあることを知って頂きたい。また対処法は正しくからだの変化を理解すれば、もっと楽な方法が見つかります。私の体重増加は更年期症状のサインでした。他にも手のこわばり、立てない程の腰痛などほかの症状も出ていたのです。更年期症状と認め、婦人科で適切な治療を受けたら、徐々に諸症状が収まってきました。外性器の乾燥にはYourSideでも販売していますが、デリケーゾーンに使用できる保湿剤でケアすることもできますし、性交時の潤い不足は潤滑ゼリーを活用できます。しかし性交時の痛みは、その年代に起きる婦人科系疾患のサインである時もあります。まずは婦人科で検査をしてもらい、何でもなければ、潤滑ゼリーを試す。それでも痛む場合は、婦人科で処方してもらえるホルモン補充療法や性交痛をピンポイントに治療できる腟座薬などもあるので、医師に相談してみてください。
からだの変化による不安は、正しい知識で変化を受け入れたり、症状に対処することができます。何よりも時間もお金も節約でき、楽しく暮らすことができるのです。
ライター/小林ひろみ
メノポーズカウンセラー。NPO法人更年期と加齢のヘルスケア会員。日本性科学会会員。性と健康を考える女性専門家の会 理事。デリケーゾーンブランドYourSide、潤滑ゼリーの輸入販売会社経営の傍ら、更年期に多い性交痛について情報発信を行う。幅広い性交時の痛みに関する情報サイト「Fuan Free (ふあんふりー)」を運営。