今週のかに座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
部屋とティッシュと私
今週のかに座は、まなざしの冴えを磨いていこうとするような星回り。
晩秋になると、すべてのものが冷え冷えとして、自身の輪郭をあらわにしてくるように感じられますが、「冷やかにティッシュ箱より直立す」(小豆澤裕子)は、何の変哲もない室内の光景にも新鮮なまなざしを向けた一句。すなわち、一枚の「ティッシュペーパー」がティッシュ箱より今まさに直立しているではないか、と。
実際、ティッシュというのは最後の一枚になるまで、箱から出てきては私たちの前に立派に立ってその存在を見せてくれる。この世で何かが垂直に屹立している姿は、私たち人間にとってある種の精神性の痕跡を感じさせますが、それをティッシュ箱にまで見出し、当たり前と考えてしまわない作者の眼は、まったく驚嘆に値します。
また、ティッシュのふわりとした形状は、それを包んでいる周囲の空気の形であり、それを新鮮な光景として捉える眼は、社会が混迷期にある言論人には特に不可欠な資質でしょう。あなたもまた、自身のまなざしをより鋭く、より深く向けていくべき対象を改めて見定めていきたいところです。
今週のしし座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
漆黒の森
今週のしし座は、若者的な「なにかやってやる」というノリとは異質なところに、佇んでいくような星回り。
「意識高い系」と呼ばれる、例えばある種のオンラインサロンにたむろするような人たちにとっては、実際にやっていることの中身やその質よりも、「何かやっている雰囲気」というのがとにかく大切なのでしょう。
たいてい、彼らは自身の取り組みにきわめて“真剣”であるがゆえに、それがどんな反応に迎えられるか、いかに評価されるかという方向に意識が縛られがちですが、ただ、そうした「なにかやってやる(からそれを好意的に受け入れてほしい)」という文化に対置されるものとして、「やらない」文化というのもあるわけです。
例えば、やたらと“仲間”を募ってよく理解できない者までも巻込んだりしない、とか、業界だとか地元だとか日本だとか、とにかく大袈裟な対象をあげて、それに自分は貢献するのだといった思い上がりは持たない、とか。あなたも、自身のやっていることの水準を保っていくためにも、そうした「やらない」文化をこそ大切にしていきたいところです。
今週のおとめ座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
自分より賢いかも知れない存在
今週のおとめ座は、誰にも邪魔されない愉しい時間を、しかと確保していこうとするような星回り。
「鰯雲ある日の海豚調教師」(四條五郎)の「鰯雲(いわしぐも)」とは、台風や移動性低気圧が多く近づく秋に特に多く見られるうろこ状の雲のこと。今ではどこの水族館でも、イルカ(海豚)のショーは目玉のひとつであり、他のゾウやトラなどの猛獣と比べても、あまり痛々しさを感じさせない明るい印象が感じられるのは、どこかでイルカたちがそれを楽しんでいるのが伝わってくるからでしょうか。
ただ、掲句の「ある日」は、すでに夏の賑わいが過ぎた、涼やかな秋の一日であり、そこには見物人の気配は感じられません。むしろ、開館前の朝のひとときや、休館日とも考えられますが、いずれにせよ調教師とイルカだけの密やかな交情のときが連想されます。
それはイルカにとっても、調教師にとっても、なにものにも代えがたい至福の時間だったのでしょう。作者はそんな光景を垣間見て、おそらく微笑をこぼしながら、静かに立ち去ったにちがいありません。今週のあなたもまた、ふふふのふ。
今週のてんびん座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
なぜ人は勉強するべきか
今週のてんびん座は、不本意な「空気」や「雰囲気」に抵抗していこうとするような星回り。
現代史、特にホロコーストの研究で知られる歴史家のクリストファー・ブラウニングは、ごく平凡な市民で構成された第101警察予備大隊が、無抵抗なユダヤ人の大虐殺に短期集中的に荷担したという事実や、その心理にまで踏み込んで、次のように述べています。
「ひとたび状況に巻き込まれると、人びとは、不服従や拒絶を一層困難にする、一連の『拘束要因』ないし『凝固メカニズム』に直面する。状況の進行は、新しい、あるいは対立するイニシアティヴを採りづらくする。『状況的義務』ないしエチケットは、拒絶することを、不適切で、無礼で、義務に対する道徳的違反であるとさえ思わせる。そして、服従しないと罰を受けるのではないかという社会化された不安が、さらに抑止力として働くのである。」
こうした一連の集団心理はいつの時代も「普通の人びと」にはつきものですが、特に今の日本においては、「社会化された不安」に身動きを封じられないよう、特に警戒していく必要があるのではないでしょうか。あなたもまた、みずからを取り囲んでいる雰囲気にどのように向き合っていくべきかということが一つのテーマとなっていくはず。