今週のかに座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
月からこの世を振り返る
今週のかに座は、目に見えない存在にこそリアリティを感じていくような星回り。
『薬盗む女やは有(ある)おぼろ月』(与謝蕪村)という句のごとし。「薬盗む女」とは、中国古代の伝説に登場する嫦娥(じょうが)という女性のことで、当然、それは空想上のおとぎ話として受けとるのが一般的なのですが、掲句ではむしろ存在が強調されています。
天界とは、この世から隔絶したはるか彼方の別世界なのではなく、下界とされるこの世と時と条件次第で重なり合って、ほのかに明るく見えてくるような何かなのかも知れません。
今週のあなたもまた、いつの間にか自分の心の支えとなっていた存在があぶり出されていきやすいでしょう。
今週のしし座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
変調か、回復か
今週のしし座は、必然だと思っていたものが、単なる偶然に過ぎないことに気付いていくような星回り。
夏目漱石の小説『門』の冒頭には、主人公の宗助がゲシュタルト崩壊に直面して、精神の変調と結びつける場面が出てきます。
「宗助は肘で挟んだ頭を少しもたげて、「どうも字と云うものは不思議だよ」と始めて細君の顔を見た。「何故」「何故って、いくら易しい字でも、こりゃ変だと思って疑ぐり出すと分からなくなる。この間も今日の今の字で大変迷った。紙の上へちゃんと書いて見て、じっと眺めていると、何だか違った様な気がする。仕舞には見れば見る程今らしくなくなって来る―御前そんな事を経験した事はないかい」「まさか」「おれだけかな」と宗助は頭へ手を当てた。」
この後、宗助は細君に「あなたどうにかしていらっしゃるのよ」なんて言われて、いよいよ居ても立っても居られなくなってしまうのですが、こうした現象はそう珍しいものでも、ネガティブなものでもありません。それは、生きているなまなましい実感への渇望の現われでもあるからです。
今週のあなたもまた、どこかで固まりかけていた意識や現実を、ゆるゆると解放させていくことになるかも知れません。
今週のおとめ座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
影に向かって跳ぶ
今週のおとめ座は、事実に体当たりしていこうとするような星回り。
『花影(かえい)婆娑(ばさ)と踏むべくありぬ峙(そわ)の月』(原石鼎)という句のごとし。「婆娑と」とは、その影がゆらりと揺れ動くさまを形容した語で、ここで作者はそれをただ客観的に説明するところを飛び越えていくのです。
花影になにか作者の心のわだかまりであったり、いつもどこか頭の隅にかかって離れない悩み事が投影されており、作者は正面きって直面してみようとしているのかも知れません。それくらい、この影は濃く、深い。そして、逆説的に空に浮かぶ月は煌々と冴えわたっていたのでしょう。
今週のあなたもまた、相手や物事の表面的な解釈を書き換えようとする代わりに、いつかは直面しなければならない事実にみずから近づいていくべし。
今週のてんびん座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
孤独のためのレッスン
今週のてんびん座は、「孤独」を丁寧にやり直していこうとするような星回り。
ハンナ・アーレントは「孤独」と「孤立」の違いについて、『全体主義の起源』のなかで「独りぼっちの人間は他人に囲まれながら、彼らと接触することができず、あるいはまた彼らの敵意にさらされている。これに反して孤独な人間は独りきりであり、それゆえ『自分自身と一緒にいることができる』。人間は『自分自身と話す』能力を持っているからである」と述べています。
欲望の回転速度に振り切られないよう、みな必死にしがみついていく訳ですが、それは「自分自身と一緒にいる」仕方が分からなかったり、その手応えを積み重ねていく機会に、たまたま恵まれなかったからなのかも知れません。
今週のあなたもまた、たぶん面倒で、扱いづらい自分のそばに改めてとどまり、「一緒にいる」時間を回復にしていくにはもってこいのタイミングと言えるでしょう。