また、育児を女性だけに押し付けるのではなく、男性も育児をしたり育休を取得したりすると、家庭でも職場でも固定的な性別役割分業意識が崩れていきます。妻だけがキャリアダウンせずに済み、職場ではさまざまな人が仕事と育児、介護や趣味などを両立して、柔軟な働き方ができる状態になります。
育児中の人もサポートを受けるだけでなく、サポートを提供する場面もあってしかるべきです。たとえば育児中の人の効率的な仕事術は素晴らしいので、それを周りに波及させたり、育児で培った忍耐力を活かして後輩を指導したりするとよいと思います。相手の事情を汲み取ってギブアンドテイクをしながら、それぞれの選択が尊重される社会になっていくことが理想的です。
ーー岸田首相が打ち出した「異次元の少子化対策」に関連して育休中のリスキリングが提案された点はどう思われますか。
育休中のリスキリングを支援するのであれば、子どもの保育もセットで進めるべきです。勉強したい人は子どもを一時保育に預けられるなど時間や環境の整備も含めた支援がなければ、「育児しながら勉強なんてできない」という批判が出るのは当然です。
育休を取得できない自営業やフリーランス、大学院生、一部の在宅ワーカーは、いまの制度では保育園に子どもを預けられないことがあります。企業に雇用されていない人や仕事を休んでいる人でも保育園に子どもを預けられるようなルールになると、育休中の人だけでなくすべての人が保育の恩恵を受けられ、子育て負担の緩和につながりますので、そういう形の支援を国には期待します。
ーー国立社会保障・人口問題研究所の第16回出生動向基本調査(2021年)によると、夫婦が理想の数の子どもをもたない理由は「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」がダントツのトップ。ただ、妻が35歳未満の場合は「自分の仕事に差し支えるから」と答えた人が21.5%おり、経済的、心理的な負担に次いで、キャリアの不安も少子化の背景にあることがわかります。
ふだん大学生と接していると、結婚や出産に大きな不安や迷いを感じていることがわかります。結婚できるのか、いつ出産するのか、出産したら仕事を続けられるのか、仕事と育児を両立している先輩が幸せそうに見えないーーなど。そういう若者たちが希望をもてるように、さまざまな選択肢を用意することが大切ではないでしょうか。
子育ては大変ですし、キャリアと両立するのも大変ですが、私たちが経験してよかったことは残し、大変だったことは変えていって、次世代の不安を解消する未来につなげたいです。
自分が子育て中に学び直しができたか、できなかったか、ではなく、次世代の選択肢を増やすための議論ができるといいと思います。
【関連記事】