無料の会員登録をすると
お気に入りができます

「育休中のリスキリングは保育とセットで」 先駆者に聞いた、いま必要な両立支援とは

戻れる職場がない人も

ーー大家議員は「育休中のリスキリング」を提案しましたが、育児によるキャリアの不安を解消するねらいだと、退職者や自営業、フリーランスなど、企業に所属していない人のニーズも大きいのではないでしょうか。

育児・介護休業法でいう育児休業を取得できない立場の人にとっても、リスキリングの機会があることは重要だと考えます。

「育休プチMBA」は育休中の人や育休を取得予定の人が主な対象ですが、育休を取得できるのは世の中で育児をしている人の一部の層だけだということは常に気にとめています。

育休中は社会保険料が免除され、育児休業給付金が雇用保険から支給されるため、手取りが大幅に減るわけではありません。復職する職場があり、不適切な待遇を受けた場合の法的な後ろ盾もあります。まだまだ十分ではないとはいえ、制度の対象にならない人から見たら相対的に恵まれていると思います。

育児の負担感はそれぞれの人の事情や感覚によって異なりますが、雇用形態もその一つの要因になることを意識して、発信の仕方には注意してきました。

picture

「育休プチMBA」勉強会の様子
ワークシフト研究所 提供

ただ、別の論点では「育休中のリスキリング」という今回のフレーズはとても効果的だと感じています。リスキリングの価値を見事に表現していると思います。

ーー「育休中のリスキリング」がまさに批判されているわけですが、どういうことでしょうか。

リスキリングとは「新しい職業に就くため、あるいは今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得すること」で、あくまで人材としての価値向上のための「学び直し」です。

よく「リカレント教育」と混同されるのですが、いわゆる生涯学習のようにそれぞれが必要なタイミングで仕事と学びのサイクルを繰り返すのではなく、時代の変化やビジネスモデルの多様化に適応し、新たな価値を創造できる人材となるためにスキルを再開発するのがリスキリングです。

最近は、育休を活用して大学院に行きたい、育休中にコーチングの資格を取りたい、キャリアカウンセリングを学びたいといった相談を受けることも増えました。その目的が自己の関心や満足のためなのか、職場で求められるスキルを向上させて必要とされる人材になろうとすることなのかを明確にすることで、時間や費用の使い方が整理できます。育休中のリスキリングは後者で、だから国が企業を支援するという話なのでしょう。

長い育休=意欲が低い?

ーー国が企業を支援すると、「育休中にまでキャリアアップを目指さなければならないのか」とプレッシャーを感じる人も出てきそうです。

繰り返しになりますが、大切なのは選択肢を増やすこと。やりたいと思った人ができる環境をつくることです。

ただし、育休はキャリアに関してネガティブな影響のほうがいまだに大きいのは事実で、育休によるキャリアダウンを防ぐという視点も必要です。

2018年のカナダの研究によると、産休育休が1年以上になると、女性のキャリアに負の影響があることがわかっています。これは本人の能力やスキルが低下するというより、周りからの見方が変わるためです。

何人かの履歴書を大学生に評価させたところ、育休を長く取っている人は、リーダー職への応募では低い評価となりました。産休育休を長く取る人は主体性や仕事への熱意が低いという印象を評価者にもたらし、期待されにくくなるためです。

これは、産休育休の長さが主体性や労働意欲をはかる尺度の一つとされていることを示しています。短時間勤務の人は仕事への意欲が低いとみなされがちなのと構造は同じです。

ただ、その人に主体性があるという情報を提供すると、この負の影響が緩和されることも明らかになっています。研究では、育休中に復職支援プログラムに参加したことを伝えると相対的に評価が高まりました。つまり低い評価になることを避けるには、主体性や熱意の高さを伝えることが必要で、育休中にリスキリングのプログラムを受けることはその一つの手段になりえるといえます。

ーーそもそも周りの評価を変えることはできないのでしょうか。育休を長く取る人は主体性が低いというのは、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)のように思えます。

もともと日本企業には、労働時間でやる気や忠誠心を推し量るという慣習があり、残業をいとわない人、休日出勤をする人が評価されてきました。

育休に限らず、効率的に仕事をこなして定時で帰るような人が評価される風土にする必要があります。評価の基準を変え、育休後の世界観を変えることが理想です。

「育休プチMBA」の卒業生たちは、勉強会で学んだ視点取得(他者の視点から物事を考えること)やタイムマネジメントなどを実務で生かし、働く時間が短くても成果を出す前例をつくってきました。そうした前例の積み重ねによって評価の基準や風土がだんだんと変わっていき、次の世代が罪悪感をもたずに育休を取得できるようになってきました。

picture

子連れで参加する人も多い育休プチMBAの勉強会
ワークシフト研究所 提供

それぞれの選択を尊重し合う

オリジナルサイトで読む
記事に関するお問い合わせ