2023年3月にグランドオープンし、エディブルフラワーを使ったフォトジェニックな「華わらび」が話題沸騰中の「麓寿庵(ろくじゅあん)」。国の登録有形文化財「久保家住宅(旧今尾景年家住宅)」を活用した、建築好き・レトロ好きの方にはたまらない一軒でもあります。歴史を感じる非日常の空間と、アートのようなわらび餅。麓寿庵で過ごす特別な時間は、京都旅行の忘れられない思い出になるはずです。
まるで食べる美術品!美しすぎる麓寿庵の「華わらび」
京都市街の中心地、四条烏丸エリア。オフィスビルや商業施設が並ぶ四条通から六角通を西へ進むと、塀に囲まれた風格ある日本家屋が姿を現します。日本画家・今尾景年の住まいとして大正3年(1914)に建てられたこの建物の1階部分が、わらび餅専門店「麓寿庵」です。
オープン早々に話題を呼んだ名物「華わらび」1550円は、半透明のわらび餅に色とりどりのエディブルフラワーを閉じ込めた、何とも絵になる一品。「歴史ある建物に合う特別な一品を」というコンセプトで作られた、新感覚のわらび餅です。ガラスの器に並んだおはじきのような外見に思わず見とれてしまいますね。
国産のわらび粉を使って独自の方法で作られるわらび餅は、品の良いほのかな甘さが特徴。つるんとなめらかな口当たりに花びらの食感がアクセントを添え、自家製の黒蜜やきな粉とも程よくマッチします。
「華わらび」のお供には、日本茶の老舗・一保堂茶舗の「ほうじ茶」200円や「抹茶」400円(写真)を。清水焼の器でいただく香り高いお茶は、心をほっと落ち着かせてくれます。今後は、鴨粥などの軽食メニューも仲間入りする予定だとか。(2023年3月10日取材時)
巨匠・景年の美のエッセンス 趣向を凝らした庭を堪能
繊細優美な花鳥画で知られ、南禅寺法堂の「雲龍図」などの大作も手掛けた今尾景年。私生活では盆栽や茶の湯を愛し、趣味人としての一面もありました。亡くなるまでの10年間を過ごしたこの邸宅には、趣向を凝らした3つのお庭があり、彼の美意識がぎゅっと凝縮されています。希望すればスタッフの方がガイドしてくれるので、ぜひ利用してみて。
まずは、主庭。洛北の鞍馬山で採れる「鞍馬石」を使った、大きな沓脱石(くつぬぎいし、写真右)が印象的です。今では採石が禁じられている鞍馬石は、表面が剥がれた際に現れる模様にわびさびが感じられ、茶人に好まれた名石なのだとか。
渡り廊下を挟んで主庭と向かい合う、枯山水の中庭。丸い石のつくばいは、平安京のメインストリート・朱雀大路の南端にあった羅城門の礎石と伝わっています。
一面の苔が見事な奥庭。こちらにも鞍馬石がふんだんに使われています。写真左側の石灯籠は、なんと鎌倉時代のものと伝わっているそう。何気ない装飾にも贅を尽くす感性に、芸術家らしい心意気が感じ取れますね。
大正天皇ゆかりの床柱も!室内のみどころも要チェック
広々とした邸内にもみどころは盛りだくさん。客席が並ぶ座敷は、主庭と奥庭が眺められる開放的な造りで、景年の作品もさりげなく飾られています。
景年が茶の湯を楽しんだ茶室「捉月(そくげつ)」。桐の一枚板を使った床の間や屋久杉で張られた天井など、現代の建築ではまず見られない贅沢なしつらえが魅力です。
大きなこぶのある床の間の柱は、大正天皇から下賜されたもの。こぶを猿に見立て、茶室の名前の元になった故事成語「猿猴捉月(えんこうそくげつ:猿が水に映った月を取ろうとして死んだことから、身の丈に合わないことをして失敗する例え)」を表現しています。
レトロ好きさんに注目してほしいのが窓ガラス。景年が暮らした当時のものが現役で使われています。現代とは違い、職人さんが手作業で作っているので、ところどころにゆるやかな歪みが入っているのが特徴。ガラス越しに眺めるお庭は、一味違う表情を見せてくれますよ♪