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子どもが騒ぐと「なぜ親は叱らないの」という視線が注がれる理由を、小児精神科医が考えた

子育て

例えば、通勤電車で毎日同じ駅で降りる習慣を繰り返していると、どの駅で降りるかを特に考えなくてもいいように前頭前野の働きが勝手に抑制されます。すると、たまに違う場所に行くときに、うっかりいつもの駅で降りてしまうようなことが起きます。

これは意識や価値観についても同じで、「親に厳しくしつけられて育った」「周りには子どもを叱る親が多い」といった経験が積み重なるごとに、「親は子どもを厳しくしつけるべきだ」という固定観念が形成されます。いったん固定されると、前頭前野が「このことについては考えなくていい」という抑制シグナルを受け取るため、ほかの考え方に気づくことも、考え方を変えることも難しくなるのです。

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『ソーシャルジャスティス』(文春新書)

Akiko Kobayashi / OTEMOTO

ーーその「刷り込み」に、年齢は関係あるのでしょうか。

一概に年齢に影響されるとは言い切れませんが、反復されればされるほど習慣化されて働きが抑制されるので、同じ情報を長く得ているとそれだけ前頭前野の活性化が難しくなるのは事実です。

いったん「このことについては考えなくていい」という抑制シグナルを受け取った前頭前野を再び活性化するのは、面倒くさい作業です。特に、その固定観念のために嫌な思いをする機会のない人は、考えなくてもいいことや考えないほうが得することのほうが多いため、「考えてください」と言われること自体に大きなストレスを感じます。

つまり、刷り込まれた固定観念をアップデートすることは難しくて当然なんです。しかし、だからといって考えなくてもいいということではありません。

アメリカに住んでいると、日本ではマジョリティであるはずの日本人男性がステレオタイプな見方をされて侮辱されている場面に出くわします。身近なネットワークの中だけで「常識」が凝り固まっているときは、異なるものに触れることで、新たな情報が入り、前頭前野が活性化されていきます。

人と対話をしたり本を読んだりと、小石を投げるような小さな行動で十分です。ちょっとエネルギーを使って意識的に前頭前野を活性化させることは、自分自身の生きやすさにもつながります。その繰り返しで社会は変わっていきますから、きっと誰にでもできることだと思っています。

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