地域名産である植物の、本来破棄される部位を用いて化粧品原料にしたり、過剰資源で害とされるものから美容成分を抽出したり。地域創生に一役を買っているご当地コスメの魅力について、「サスティナブルコスメアワード」で審査員長を務める岸紅子さんに教えていただいきました。
お話を伺ったのは… 岸紅子さん
NPO法人 日本ホリスティックビューティ協会 代表理事
ストレス性喘息・子宮内膜症など自身の不調をきっかけにホリスティックライフを実践し健康を取り戻す。2006年に協会発足以降、全国に心身の健康を育む知恵を広げている。環境省の「つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト」アンバサダーとしても活躍。
捨てられるはずの農産物をコスメに変えて地域に貢献
人にも環境にもやさしいコスメを表彰する「サスティナブルコスメアワード」。2020年ゴールド賞を受賞したのは、広島県竹原市の〈SETOUCHI T&K HERB〉。放置された竹林を伐採し、その竹を発酵させて抽出した乳酸菌成分を使用した化粧水にスポットライトが当たり受賞に至りました。耕作放棄地で栽培したハーブも配合しているのだそう。竹〝害〞を竹〝益〞に変える発想の転換で、本来捨てられるはずの農作物がコスメに変わったのです。
「サスティナブルコスメアワード」は、審査委員長の岸紅子さんがアンバサダーを務める環境省の「つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト」でSDGs’の取り組みについてディスカッションを行ったことに端を発し2019年からスタート。
「一人ひとりが自分ごととして、苦手意識を持つことなくサスティナブルな活動を取り入れられる方法がないかと考えたときに、〝生活に密着したもので、消費の選択肢をエコに変えていく仕組みをつくれないか〞と思ったのがきっかけです。地域社会に目を向けると、大量生産し大量に廃棄される農作物や、人手不足などの影響から耕作放棄地となっている農地の問題がありました。原材料の栽培から製造、廃棄するところまで環境に配慮されたサスティナブルコスメを手に取ることは、普段の生活の中で環境問題に触れ、地域社会への貢献にもなる。とてもポジティブな循環が生まれるのです」(岸さん)
環境や地域に対してだけでなく、サスティナブルコスメがもたらす美への貢献も忘れてはならないポイントのひとつ。「シルバー賞を受賞した、〈明日わたしは柿の木にのぼる〉のフェミニンオイル。キーとなる成分は、福島県の名産品〝あんぽ柿〞の生産過程で廃棄されてしまう柿の皮部分から抽出したエキスです。皮にはタンニンという消臭作用や引き締め作用に優れた栄養素が豊富なことに着目し、デリケートゾーンケア製品に採用されています」(岸さん)
心をうるおすセルフケアはオーガニックコスメとともに
「長年ホリスティック美容家として活動していて、一日一回でも良いから、自分が〝心地よい〞〝気持ち良い〞と思う時間をつくることが、心身の健康にとってとても大切だなと感じています。そんなときに、コスメはとても有効。香りや触感、美しい佇まい、感覚をフルに使うことで心がうるおされていきます。オーガニックコスメには、なんとなく穏やかそうというイメージがあるかもしれませんが、私からすると、むしろとてもパワフル。自然の持っているエネルギーを、精油の香りや植物から抽出された美容成分からひしひしと感じます」(岸さん)
「サスティナブルコスメアワード」をSDGs’が目標に設定している2030年までの期限つきアワードにし、当たり前にサスティナブルなものが選ばれる社会へ導いていけたらと、未来への熱い想いを語ってくれた岸さん。ご当地コスメを手に取ることが、地球環境を変える一歩になるかもしれません。
《SETOUCHI T&K HERB》
“竹害”を“竹益“に。地域資源を最大限に生かしたハーブコスメ
瀬戸内海に面した港町、広島県竹原市のシンボルである「竹」。手入れされず、いつしか害と化してしまった竹を伐採し、化粧品の原料へと生まれ変わらせたのが〈SETOUCHI T&K HERB〉。4種の植物性乳酸菌を持つ竹をパウダー化し自然発酵させて芳香蒸留水を抽出した。瀬戸内海周辺の耕作放棄地をハーブ栽培地としても活用し、廃校になった小学校を改修した香寺ハーブ・ガーデンの製造工場で調合。地域資源を最大限に生かした取り組みが評価され、「サスティナブルアワード2020」ではゴールド賞を受賞。
竹原市のシンボルである「竹」。市内のあちこちに手を加えられることなく自然のままに育った竹林が広がる。春には「竹祭り」が開催され、観光名所としても人気。
しっとり瀬戸内ハーブ・ウォーター
竹から抽出した芳香蒸留水に、レモンマートルとカミツレのハーブウォーターをブレンド。さわやかな香りでしっとりとうるおしてくれる化粧水。しっとり瀬戸内ハーブ・ウォー ター 100mL ¥7,590(リム・ジャパン)
(問)rimj_info@ybb.ne.jp
《明日 わたしは柿の木にのぼる》
捨てられてしまう柿の皮から女性のための美容成分を抽出
女性をサポートしたいという想いから、デリケートソーンケア製品を展開する〈明日 わたしは柿の木にのぼる〉。元官僚である代表の小林味愛氏が訪れた福島の地で、その消臭・抗菌・収斂の作用から、虫歯や歯周炎の予防や、住居や家具の防腐対策、石けんなど様々な用途に用いられてきた柿渋の存在を知る。福島県国見町名産「あんぽ柿」の生産過程で、剥いた皮や収穫しきれなかった柿が廃棄されてしまう実情を目の当たりにし、捨てられてしまう柿の皮から美容成分を抽出し、主原料として採用している。
福島県北部に位置する国見町は、冬でも日射量が多く昼夜の寒暖差が大きいことから、柿栽培に最適な自然環境。陽をたっぷり浴びた柿は、ビタミンAやカリウム、食物繊維など栄養素も豊富。
フェミニンオイル
ベタつかず伸びのよいデリケートゾーンケア用のための美容オイル。カキ果皮エキスを配合。フェミニンオイル 30mL ¥4,400(陽と人)
(問)info@hito-bito.jp
《QUON》
耕作放棄地を再生して栽培したワイルドクラフト茶葉を原料に
〈QUON>を運営するクレコスは、国産オーガニックコスメの先駆け的存在。奈良県・大和高原の耕作放棄地を再生し、農薬や肥料を一切与えない「自然農(ワイルドクラフト)」で栽培された「健一自然農園」の大和茶をキー成分に採用している。原料植物の蒸留などを障がいのある方々が働く施設へ委託し雇用を創出。パッケージには、間伐材を利用しパルプから製造した紙を使用するなど、化粧品をつくるすべての工程で地域社会への貢献を果たす。
寒暖の差が激しく厳しい標高500mの大和高原。長い冬を越えた茶葉は、秋から冬にかけて栄養分をしっかり蓄え、パワフルに芽を伸ばす。