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「昨日までは織れたのに...」 忍耐強く糸と対話する、タオル職人の極意

視野が狭くなっていた

入社して4、5年目のときだったでしょうか。織機に新しい「伸べ」をかけて糸をつなぐ作業のときに、何度も何度も糸を切ってしまって、糸をかけるだけで3日ほどかかったことがありました。

「オーガニックエアー」という軽いタオルをつくるための、極細でいちばん面倒くさい糸でした。思い通りにならないので無理に引っ張ったからか、ブチブチと切れる。そのせいで織機を1台止めてしまっていたので、早く回さなければいけないと焦れば焦るほどうまくいきませんでした。

朝から晩まで織機と向き合ってもうまくいかず、原因も対策もわからないので、無力感を抱えたまま帰宅しました。「もう疲れた。明日考えよう!」と開き直って酒を飲むしかなかったですね(笑)。結局、先輩に手伝ってもらいながら最終的には糸をつなげて織機が動くようになったんですが、その失敗から僕が学んだのは、「全体を見る」ということでした。

糸が1本ひっかかっていたらそこを直していたんですが、そうするうちに視野がどんどん狭くなっていって、「こっちが直ったからできるだろう」と思って回したら、今度は別のところがひっかかった。そこを直したら、また別のところで問題が起きた。部分的な調整を重ねたために、問題のなかったところを含めてすべてのバランスが崩れてしまっていたのです。

たとえ遠回りであっても、最初から全体を見て調整しなければならなかったんです。

失敗したときほど学べることは多いです。そのときから、なるべく視野を広げて全体を見るようにしています。

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Akiko Kobayashi / OTEMOTO

押してダメなら引いてみる

糸が切れないまでも、パイルがほつれたり固まったりするときもあります。ひどいとB品になることもあるので避けたいのですが、原因がはっきりわからないことも多くあります。

理論上はわかっていても、その通りにならない。考えられる対策をしてもどうにもならないときがあります。そういうときは、押してダメなら引いてみるとか、反対側からやってみるとか、理屈とは違うけれどあれこれやってみたらうまくいくことがあります。

次のときに同じようにうまくいくとも限らないので、再現性はありません。でも、途中であきらめていたらつくれなかったはずのものが、つくれることがあるんです。それは、糸の状態が日によってまったく違うから。理論だけにとらわれず、忍耐強く糸と対話することも、この仕事では必要なのかもしれません。

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愛媛県今治市にある本社の花壇でコットンが芽吹いていた(2023年5月撮影)
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

オーガニックコットンの糸はとても繊細で、例えば「オーガニックエアー」は、湿度が高いと織れないタオルです。夏場、糸をつなぐときにちょっと汗を拭いただけでもほどけてしまうことがあります。逆に湿度が高くないと毛羽立ってしまう糸もあるので、効率のよい生産工程を考える必要があります。

機械もそうです。同じ規格の織機であっても癖があるので、どの織機でも同じようには織れません。その微細な差を調整するのが人間の仕事です。

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池内計司代表(左)と話す川本さん
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

他と同じではつまらない

最新の織機は、温度や湿度の管理も含めてすべてデジタルに切り替わっているものもあります。そもそもオーガニックコットンのような繊細な糸を使っている工場も少ないので、同業者と話していると「大変やねえ」「そもそもそんな問題は発生したことがない」と驚かれます。

僕はタオル製織のスタートがオーガニックコットンだったので、それ以外の糸や織り方を知らないんです。

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Akiko Kobayashi / OTEMOTO

では、大変ではない道を選びたいかというと、そうではありません。大変ではない道を選ぶということは、すなわち他と同じものをつくる道だからです。手間をかけてつくっているオーガニックコットンで織るタオルを売りにしているブランドが、製織の技術を失ったら他と同じになってしまう。それではつまらない。他にはないタオルをつくり続けていきたいんです。

糸が切れないようにするにはどうすればいいか、14年間ずっと考えてきましたが、わかりません。なので、あきらめました。糸ですからね、切れるんですよ。

どうしようもないことは受け入れる。そして「うーん、うーん」と言いながら、きっと明日もあさっても、糸と織機と格闘していくんでしょうね。

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