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洗濯機で洗っても縮まないカシミヤセーター。岩手県北上市でつくる高級ニットが世界に進出

布から切り出してつくる服とは違い、ニットは切るとほどけてしまうので、長すぎるからといって切って短くすることができません。体のサイズにぴったりしたニットをつくるには、最初からその形に編んでいくしかないのです。逆に言うと、端切れが出ず、究極のSDGsともいえます。

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南青山本店のカシミヤ・ライブラリー。UTOのセーターは25色から選べ、その発色の良さも特徴の一つ
Hidemi Shinoda for OTEMOTO

また、これまでのニット製品の常識を覆すオーダーメイドを取り入れることで、他社と明確な差別化が図れると考えました。

実は、独立して、お金もないし、返品はされるし、業績が振るわず、在庫と借金で苦しんだ時代もありました。どうやって対処したらいいかを毎日考えた末に、これまでの失敗から、製品アイテムを絞り込むことで品質が向上することに気づきました。

それに、オーダーメイドにすれば在庫を抱えることもありません。カシミヤに惹かれ、長年勉強を続けてきたことと、高度な技術を持つニット職人との出会いもあり、世界で最高品質のカシミヤに特化して、オーダーメイドでその人のためだけのニットをつくるというビジネスモデルでやっていくことを決めました。

ーーカシミヤ製品を扱うアパレルメーカーはたくさんありますが、なぜ他のメーカーは、ニットのオーダーメイドには手を出さないのでしょう。

基本的に市販のニットは、編みやリンキング(腕や胴体など部位ごとに編まれたパーツをつなぎ合わせて、伸縮性を妨げずに縫製する手法)といった作業が分業で行われる大量生産です。「あなたのために」つくるとなると、高価な機械を買うしかなく、割が悪い。それが、他の人がニットのオーダーメイドに手を出さない理由の一つでしょう。

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UTOのリンキングは手作業で行われています
写真提供:UTO(ユーティーオー)

また、これはニットの長所であり欠点でもあるのですが、ニットは「いい加減が良い加減」です。ニットの魅力は着心地の良さですが、それは編み地の伸び縮みによります。普段みなさんが当たり前に着ているニットの、首まわりを思い浮かべてください。頭が入るくらいに伸びるのに、首のところでピッタリ縮んでくれますよね。この、ニット特有の伸縮性があるため、サイズが定まりにくいのです。これが他のメーカーが、ニットのオーダーメイドに手を出さないもう一つの理由です。

セーターを編む時には、何センチの幅にどれだけの針本数で、何センチの丈に対して何回編むということを設計図に書き、その通りに編んでいきますが、目数や回数が正確でも、幅や丈が微妙に違うことがしょっちゅうあります。伸び縮みの度合いは、気温や湿度によっても変わってきます。そこを、カシミヤだけを研究してきた長年の経験と勘で調整しながらつくり上げていくのです。

UTOのカスタムオーダーメイドでは、着丈や袖丈、色を自分好みにオーダーすることができます。長年カシミヤだけに向き合ってきたから、「いい加減」の塩梅がわかる知見と技術があり、オーダーでひとりひとりにフィットし、高額でもご満足いただける価値の製品がつくれるのです。もしも、ワンシーズンごとに扱う品物が変わっていたら、こうはいきません。

世界中で他にニットのオーダーメイドをやっているところはないか、「やるはずないよね」と思いながら探しましたけど、いまのところどこもやっていないですね。(笑)

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左が新品、右が15年もののカシミヤセーター。まだ角が立っているような印象の新品に対して、15年ものは中から産毛が出て、ふんわりとした風合いが増しています。「柔らかくしっとりと肌に馴染みます」
Hidemi Shinoda for OTEMOTO

売ることは尊い

ーーカスタムオーダーのニット1枚につきおよそ6万円〜と、良いお値段がしますが、岩手県北上市からふるさと納税返礼品の提案を受け、この9年間(2014年から)で通算17億円の売り上げを計上します。

「よくあんな値段で売れるね」と他の工場や産地の人に言われるんですよ。ほとんどの人は、安く売ることや、コスト削減しか頭にないからかもしれません。

僕が旅行業をしていた時にヨーロッパで一番勉強したことは、「売ることは尊い」ということです。日本人はとかく、ものづくりには尊さを感じるけれど、高い値段をつけて売ることには尻込みをする。安いことが良いことだという感覚が浸透してしまっているからではないでしょうか。

だけど、それではつくり手が生活していけない。付加価値をつけて、高く売らないと。もちろん、世の中には、安く早く、を大事にしたビジネスがあることも知っています。どっちを選ぶか、だけの問題であって、彼らと競争してはいけないんです。僕はへそ曲がりだからね(笑)。

ウールではなくカシミヤを着るっていうことは、いつものニット、プラス何かが欲しいわけですよね?それを「ご馳走」と表現して、「うちは『ご馳走』をつくる感じで行こうね」と、いつも話しています。カシミヤを身につけると身体も暖かいけど、心が暖かいのも大事でしょ。

ビジネスをするなら、他の人がやっていないジャンルのほうが、競争相手がいなくていいじゃないですか(笑)。人がやらないならやってみようと言うのが僕の原点。最初のキャリアだった、旅行業の時もそうでした。

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オフィスのBGMは、いつもジブリかモーツァルト。「ファンタジーの中で仕事をしているんです(笑)」という宇土さんが着ているのは、もちろんUTOのカシミヤセーター。小さい頃の夢は昆虫学者で、日本の蝶の全種類を誦じられるほどだったそう
Hidemi Shinoda for OTEMOTO

まだ海外旅行が一般的ではなかった1970年代に、世界を見たい一心で、蘭を視察するタイ・シンガポールの旅や、日本一の高校マーチングバンドをヨーロッパでの国際コンテストに出場させるツアーなど、誰もやっていなかった企画を実現させ、20代のうちに添乗員として海外に行きました。ドイツのロマンチック街道にツアーを組んで最初に行ったのも、実は僕です。

夢のある場所でつくる

ーー現在、岩手県北上市に工場がありますが、宇土さんが工場や工場で働く方たちに求めることはなんですか。

以前スイスで、高級時計を作るアトリエを訪ねたことがあります。一人の人がゼロからつくり上げるので、自宅兼アトリエです。これが湖畔の近くの、すっごくきれいなところにあるんですよね。作業の合間に一息つきにボートに乗ったりして、夢があると感じました。『ご馳走』をつくる場所は、夢があるところがいいなあと思っています。

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