無料の会員登録をすると
お気に入りができます

洗濯機で洗っても縮まないカシミヤセーター。岩手県北上市でつくる高級ニットが世界に進出

ライフスタイル

岩手県北上市の工場で1枚1枚つくられている日本製カシミヤニットが、イギリスの老舗高級紳士服テーラーのハンツマンで取り扱われることになりました。徹底して最高品質のカシミヤだけを扱い、自分だけの1着をつくれる「カスタムオーダーメイド」を採用したUTO(ユーティーオー)社長の宇土寿和さんは、カシミヤに魅せられて旅行業から転身した異色の経歴。カシミヤにかける想いをとことん聞きました。

picture

セーターを織るカシミヤの糸。引っ張ると簡単に切れます
Hidemi Shinoda for OTEMOTO

ーー毎年、冬になるとニットのお手入れの正解がわからず困るのですが、UTOのニットはなんと洗濯機で洗えるのだそうで?

まず、ニットを長持ちさせる秘訣は、2日続けて着ないことと、頻繁に洗いすぎないことです。洗うのはワンシーズンに2〜3回で十分です。

そして、UTOのカシミヤセーターは洗濯機で洗えます。ネットに入れて洗濯機を「手洗いモード」にして、中性洗剤を入れ、たくさんの水の中で泳がせるように洗ってください。他の多くの洗濯物と一緒に入れて、押し合いへし合いすると縮む原因になるので、セーターだけを入れてください。

洗剤で汚れとともに油分も落ちるので、リンスや柔軟剤を入れて少し戻します。手で絞らず脱水機にかけて、平置きして元の形に整えて乾かします。ストレスを加えるとダメージが大きいのでNGです。この方法でもしうちのニットが縮んだら、つくり直しますよ。

picture

ニットをハンガーにかける際、縦に二つ折りにして脇の下をハンガーの頂点にくるようにかけると、ニット自身の重みでニットが伸びることを防げます
Hidemi Shinoda for OTEMOTO

月給を超えるセーター

ーー宇土さんはニットに関する著書もあるほど詳しいですが、もともとは旅行業界で働いていたんですね。

旅行業界にいた時に組んだ「ファッションツアー」がアパレル業界に入るきっかけになりました。

1970年代はファッション業界的に景気の良い頃だったので、ヨーロッパへ最新ファッションの視察に行こうと、ニットメーカーと、そのOEM(受託制作)をやっているニッター、大手繊維会社などニット関連の会社が何社か参加し、ロンドン、パリ、ミラノを巡りました。私は添乗員として同行し、一流ブランドの1枚のニットセーターが、私の給料の1カ月分を超える金額で大変驚きました。

picture

宇土寿和(うと・としかず) / 株式会社ユーティーオー 代表取締役
1950年長崎県島原市生まれ。海外旅行に携わりヨーロッパのファッション視察旅行を数多く主催。この出会いを機に1980年に旅行業からニットアパレルに転身し、軽くて柔らかいカシミアの風合いに魅了される。国内外の工場の訪問・取引を通じて、カシミアをはじめとするニットの生産方法やファッションビジネスを学ぶ。1992年に独立し、株式会社bhfインターナショナルを創立。2000年に名称を株式会社ユーティーオーに変更。2001年よりカシミアニットに特化し、ニットでは非常識とされていたセミオーダーのブランド「UTO」を展開。 著書に『カシミアとニットの話』(繊研新聞社)。2024年より、英国・ロンドンのサヴィルロウにある名門店「ハンツマン」、オーストラリア・シドニーの高級店「J.H.カトラー」で日本のニットブランドとして初めて取り扱いが決定している

UTO

Hidemi Shinoda for OTEMOTO

その後、ツアーに参加していたニットを扱うアパレルメーカーから誘われて、旅行会社を辞めてアパレル業界に入りました。長崎県島原市の田舎の出身の自分が、30歳で初めてカシミヤに触れ、これまで手にしてきたどんなウールとも全然違う、群を抜いた柔らかさに「なんだこれは!」と衝撃を受けました。その時の感動を忘れず、今に至るまで持ち続けています。

picture

UTOのニットはやや詰め気味に編まれています。何度か洗濯するうちに身体に馴染み、より柔らかい風合いに。数字には表れない着心地まで大事にしているそう
Hidemi Shinoda for OTEMOTO

ーー特に、カシミヤのどんなところに特に惹かれたのですか?

世の中に出回っている動物の毛の中で、最も細い毛がカシミヤ(カシミヤゴートというヤギの産毛を、櫛ですき取ったもの)なんですが、カシミヤの柔らかさは大きな変貌を遂げた姿なのです。実は、カシミヤの糸や編み上がったばかりのカシミヤセーターの編み地は、あのふんわり感からはほど遠い、角の立った手触りです。

ふんわりとなる秘密は「縮絨(しゅくじゅう)」という作業にあります。簡単に言うと、セーターを水洗いして、糸の間に水を通してやるんです。ある温度になると、縮み始めて、中の産毛がふわ〜んと出てきます。

縮絨の水温は重要な企業秘密です。縮絨を軽くしたり、強くしたり、加減することで風合いや寸法が違ってくるので、つくりたいカシミヤセーターの風合いをイメージして、使う糸や、縮絨の度合いを決め、縮みも加味して寸法を決めていきます。

この加減のおかげで、先ほど言ったように、UTOのカシミヤセーターは家庭の洗濯機で洗っても縮まないのです。つくり手の経験と勘とセンスを必要とする、カシミヤという素材の奥深さに魅了され続けています。

picture

深みのある色は色のブレンドで生まれます。「ロイヤルブルー」は5色の青から
写真提供:UTO(ユーティーオー)

いい加減が良い加減

ーー自社で一貫して企画・製造・販売をするオーダーメイドのカシミヤセーターは、手編みを除けば、世界でも類を見ないビジネスですが、なぜ始めたのでしょうか。

オーダーメイドにしようと思ったきっかけは、独立する前に働いていたニットメーカーで営業をしていた時に、お客様から「もうちょっと(袖や、裾の)丈を短くできない?」と、よく言われたことでした。

オリジナルサイトで読む
記事に関するお問い合わせ