玄米麺をつくり始めてから約10年。米粉の認知度の高まりもあり、販売は軌道に乗りました。ところが、大きな問題に直面します。生産者の高齢化です。
「今まで私たちは加工品をつくることで農地を守ろうとしていましたが、原材料がなければ加工もできません。これからは自分たちで生産もしていかないと」(綾子さん)
2人は有機農業を学び直し、主に健太郎さんが田んぼに出ることにしたのです。農業だけでなく、同時に林業も始めました。
山から出てくるイノシシによる獣害が深刻なうえ、放置された雑木林からだと田んぼにうまく水を引けないため、田んぼを守るためには里山から整えなければならないからです。
玄米麺はもちもちの食感でそばやラーメンの代わりに、白米麺は平打ちでコシがあるためパスタやうどんのように調理できる
Akiko Kobayashi / OTEMOTO
里山の景色を守りたいという思いの前に立ちはだかる、一筋縄ではいかない現実。しかし、「やるしかない」と健太郎さんは言います。
「もともと農業をやりたかったわけではないけれど、目の前に課題があるなら、それを見過ごす選択はありません。自分で一からつくることで納得したいという気持ちもあります」
「そもそも農業そのものが環境を破壊しかねない産業なので、なるべく環境に負荷をかけないよう、収穫量は少なくても化学肥料や農薬に頼らない有機農業でやっていきます」(健太郎さん)
写真提供:宮内舎
仲間が増えていく
大きな自然を前に挑戦を続ける夫婦の支えになっているのは、UターンやIターンでこの地に移り住み、起業する仲間たちです。
土地を耕してスパイスを育てる「出雲スパイスラボ」、野草と番茶のブレンド茶をつくる「かみや園+」など、雲南市内では若手によるスモール・ビジネスがいくつも生まれています。
「『何やってるの』と東京から遊びに来てくれて、何度か通ううちに移住することを決め、ここで事業を立ち上げるという動きが、この10年の間にたくさんありました。ここでの暮らしを楽しむ仲間が増えていくのがうれしくて」
「応援してくれる人、通ってくれる人、地元を出たけれどずっと関わりたいと思ってくれている人。そんな人たちが何か地元のものを買いたいと思ったときに、いいものがギュッと詰まっている拠点ができるといいなと思います」(綾子さん)
雲南市でスモール・ビジネスが続々と立ち上がっているのはなぜなのか。関連記事を後日公開予定です。