女性の健康課題を技術で解決へと導く製品やサービスを指す「フェムテック」。カバーするカテゴリーは妊活や産後ケア、セクシャルウェルネス(性の健康)、更年期の不調など、さまざまなものがあります。最も身近なものは生理期間に活用できるアイテムだと話すのは、無印良品のフェムケア アドバイザーなどとして活動するフリーエディターの大杉真心さん。なかには医学的根拠などに乏しく信憑性がない製品もあるため、個人の知識や選び方が大切だといいます。
近年、さまざまなメディアでも取り上げられている「フェムテック」。2021年の新語・流行語大賞にもノミネートされたこの言葉を、一度は耳にしたことがあるという方が多いのではないでしょうか。
Female(女性)とTechnology(技術)を掛け合わせた造語であるフェムテックは、その名の通り、女性の健康課題を技術で解決へと導く製品やサービスのこと。無印良品のフェムケア アドバイザーやIZAのフェムテックディレクターとして活動する、フリーエディターの大杉真心さんによると、その誕生のきっかけはデンマーク人女性が手がけた生理日管理アプリだったといいます。
生理との長い付き合い
「ドイツの月経管理アプリ『Clue(クルー)』の共同創業者、イダ・ティン氏が資金調達に際し、ビジネスカテゴリーとして"フェムテック"という言葉を作ったことがはじまりだといわれています。フェムテックという言葉が世界に広がったことで、デリケートゾーンケアや骨盤底筋トレーニングといった最新技術に依存しない従来の製品にもFemale(女性)とCare(ケア)を掛け合わせた"フェムケア"という名前がつくなど、フェムテック製品と合わせて注目されるようになっています」
フェムテック市場の規模は世界で拡大しており、今後より一層その需要が高まっていくとみられていますが、女性の健康課題をカバーするフェムテックゆえに、そのカテゴリーはさまざま。妊活や産後ケア、セクシャルウェルネス(性の健康)、更年期の不調などがありますが、最も身近なものは生理期間に活用できるアイテムだと大杉さんは話します。
大杉真心(おおすぎ・まみ)/フェムテック ライター / エディター / ディレクター
「WWD JAPAN」に編集記者として約9年間所属し、2019年からはフェムテック分野を開拓し、女性の健康課題を解決する商品やサービスについて執筆。 2021年8月に独立し、ファッションとフェムテック に関する編集、執筆、企画に携わる。2021年8月からセレクトショップIZAのフェムテックディレクターとして、2023年9月からは良品計画のフェムケア アドバイザーとして活動中。
Hirohiko Namba / OTEMOTO
「女性は10〜50代前後までの約40年間、生理と生活をともにします。経血の量は個人差があるものの、1回の生理での正常な経血量の目安は20ml〜140mlとかなり幅があります。また生理前にはPMS(月経前症候群)というイライラ、肌あれ、カラダの不調に悩まされることもあります」
「また、生涯の生理の回数は、出産や授乳の機会が多かった昭和初期の女性で50回程度だったと考えられていますが、現代女性は約450回といわれています。およそ9倍もの差が出ていることからも、生理痛やPMS(月経前症候群)に悩まされている人が増えている傾向です。フェムテックはそんな現代女性をサポートする心強いものになっています」
活用のために欠かせない知識
大杉さんがフェムテックの代表アイテムとして挙げるのは、吸水サニタリーショーツ。水分を吸収・拡散したり、アンモニア臭を軽減してくれる新素材を採用した製品も登場しています。
国内では、薬機法の規制により吸水ショーツは生理用品として認められていませんが、多くのメーカーからデザインや機能性の異なるショーツが開発され、選択肢が増えています。
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「ボトムスにひびきにくい薄手のデザインは洋服を選ばず取り入れやすく、マチ部分が二重になっているのでナプキンの羽を入れ込んで着用することもできます。まずは、はじまりそうな日や終わりかけの日に取り入れてみるのがおすすめです」
「また、トランスジェンダー男性(FTM、体の性は女性だが性自認は男性)の方にも吸水ショーツは便利なアイテムといえるでしょう。ナプキンなどを捨てるサニタリーボックスのない場所に困ることも減り、最近はボクサーパンツ型の吸水ショーツも登場しているため、フェミニンなデザインに抵抗がある方でも取り入れやすくなっています」
瞬間吸水素材で水分を吸水・保水できるほか、透湿防水フィルムで水分の染み出しを防ぐ効果も。
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その反面、気をつけたいのはフェムテック製品の選び方。悩みや課題には個人差があるため、自分に合ったアイテムを見つけるには時間がかかることも。フェムテックはあくまでもセルフケアのツール。もし体の不調や異常を感じているのであれば、専門医に相談することが大切です。
「厚生労働省が定めている生理処理用品製造販売承認基準や生理処理用品材料規格については、(安全性が認められることを前提に)時代に合わせて変化していってほしいと思っています。ただし、なかには医学的根拠などに乏しく、信憑性がない製品があることも事実なので、やはり個人の知識や選び方も問われてきますね」
「どのようなメーカーやブランドがあるかを知り、どのように解決してくれるのかがわかりづらい場合は、消費者として調べたり、相談をすることも必要。フェムテック製品を販売している企業は、健康課題に関するデジタルコンテンツの発信などもセットで行っていることも多いため、そうした情報を自ら取り入れていく姿勢も大切です」
ナプキンを携帯できるポケット付きのキッズ用(右上)もあり、世代を問わず使用できる。
Hirohiko Namba / OTEMOTO
健康と向き合うきっかけに
一方で、健康課題に悩んできたさまざまな人たちをサポートする、新たな視点を反映した製品にも期待が寄せられています。
「乳がんなどの手術を経験した方に向け、前開きのブラジャーやタンクトップも登場しています。治療でわきの下のリンパ節切除を行うと腕が上がりにくくなることもあり、背中のホックをつけることが困難な方でも、着脱がしやすい作りになっているのです。"フェムテック"という言葉が広がったことから多くの企業やメーカーが参入し、これまで隠れていた悩みに着目した商品開発を進めていることはとてもいい流れだと思います」
腕を上げづらい乳がん手術経験者にも使いやすい前開きのタンクトップ。
Hirohiko Namba / OTEMOTO
GAFAをはじめ、卵子凍結や妊活の支援サービスなどのフェムテックを従業員の福利厚生としている日本企業も増加中。優秀な人材を確保する意味でも、健康課題と真剣に向き合う姿勢が企業にも求められています。