無料の会員登録をすると
お気に入りができます

不祥事でどん底からの経営再建。前田薬品3代目は、得意分野に全集中する戦略に賭けた

picture

Akiko Kobayashi / OTEMOTO

それから組織改革に乗り出しました。役員と管理職を再選出することにしました。

それまでは役職によってレイヤーが細かく分かれていて、社長と社員の距離が遠くて声が届きづらい組織体制になっていました。また、管理職の要件が明確ではなく、役職と能力や適性がマッチしておらず不信感が広がっていました。

そこで、役員、各部署のマネージャー、一般社員の3つのレイヤーに減らし、マネージャーの人数を10数人に絞りました。その代わり、マネージャーの給与水準を大きく引き上げました。

それは、京セラ創業者の稲盛和夫さんの「盛和塾」で学んだ「アメーバ経営」を実践するためです。各部署を独立採算にし、社内で取引を発生させるために、マネージャーの責任範囲を広げたのです。

部署の"経営者"として社内取引をすべて記録し、予実対比と精緻な分析ができることを、マネージャーの要件としました。

picture

Akiko Kobayashi / OTEMOTO

そのほかにも、会議の回数を増やして問題の発見から解決までを短くするなど、合理的な仕組みを次々と導入しました。ですが、僕はもともと人情に流されやすいタイプ。トップダウンで合理的な経営に踏み切れたのも、社員と家族のように接し、面談をしてきたからこそです。部下からの信頼が厚い女性をマネージャーに抜擢したりもしました。

「私たちは幸せですか?」

売上はV字回復し、改ざん後4年目で黒字を達成できました。そのとき僕は「まだまだ伸ばせる」と感じていました。

2022年に新入社員から70歳の副社長まで全員で長期的なビジョンを考えるためのセッションをしたんです。もともと僕がつくっていた2030年に向けた目標は「売上100億円を達成し、グローバル企業として成長する」といったものでした。

ところが、Z世代の社員から「ダサくないですか...?何も響きません」とこき下ろされたんです。

「会社が成長したら社長はうれしいかもしれないけど、私たちは幸せなんでしょうか?」と。ハッとさせられました。

100億の売上を達成したとしても、社員が幸せとワクワクを感じていない組織はどうなんだろうか。会社の存在意義について考え直すきっかけになりました。(後編に続く)

後編
picture

特集「心のローカル」 / OTEMOTO

「心のローカル」
オリジナルサイトで読む
記事に関するお問い合わせ