「相手のことは大切。でも、なんで私ばっかり我慢してるんだろう…」そんな思いを抱えながら、パートナーとの関係を続けていませんか?今回は、自分を押しころさずに、相手も尊重するためのヒントを、心理学の視点から紐解いていきます。
尊重と我慢は違うもの
傷つけたくない、うまくやりたい、波風は立てたくない。そう思えば思うほど、自分の気持ちを飲み込んでしまい、「尊重」と「自己犠牲」の境目が分からなくなっていく…。夫婦関係とは、お互いを慎重して思いやりを育む場所でもありますが、同時に、自分を見失いやすい場所でもあります。「相手に合わせること=思いやり」だと感じると、自分の気持ちを抑え込んでしまいがちです。しかし、思いやりと我慢は異なるものです。
尊重とは、相手の価値観や立場を認めようとする姿勢であり、どちらかが一方的に自分の気持ちやニーズを押しころすことではありません。自分を無視し続けた関係は、やがて摩耗し、「こんなに我慢してるのに伝わらない」と、怒りや虚しさへと変わるリスクがあります。そうなる前に、二人の関係性を見直すことも必要かもしれません。
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自分に思いやりを向ける「セルフ・コンパッション」
心理学には、セルフ・コンパッション(自分への思いやり)という概念があります。それは、つらいときや不安なとき、どんな時にも自分で自分に優しさを向け、寄り添うような態度をとることです。たとえば、夫婦間ですれ違いが起き、「また私が我慢すればいいのかな…」と考えてしんどさを感じる。そんなときには、こう言ってみてください。「いま、しんどさを感じているなあ。我慢するのはしんどいよね。私ばっかり我慢しなくてもいんだよ。」しんどさを認める。そして自分自身に優しい言葉をかける。相手に優しくする前に、まずは自分に思いやりを向けること。その“自分との対話”が、次の一歩を支えてくれます。
ぶつけずに伝える「コンパッションのある対話」の工夫
気持ちを言葉にするとき、大切なのは「伝える目的」です。怒りや不満をぶつけるのではなく、「相手と分かり合いたい」「相手とつながりたい」等の根本にある気持ちに目を向けてみましょう。
Aさん:「最近、私の家事負担が多い気がして疲れてるの…」
Bさん:「え?手伝ってるつもりだけど…」
Aさん:「え?何をやっているの?あなたがやっているのはゴミ出しくらいじゃない!」
最後のAさんのセリフは、相手を主語にしたメッセージです。このように伝えると、Bさんから防衛的な返答や攻撃的な返答が返ってきやすくなります。iメッセージ(自分を主語にしたメッセージ)を取り入れながら変換していきましょう。
Aさん:「私、最近ちょっと余裕がなくて…家のこともできてない感じがしてつらいんだ。気づかないうちに無理してたみたい」
Bさん:「そっか…それは気づかなかった。ごめんね。何かできることある?」
Aさん:「洗い物を手伝ってもらえると助かる」
こちらのAさんは、私は余裕がない、私はつらい、私が助かるとiメッセージを使っています。このように、「相手を責めない言い方」+「自分の気持ちの言語化」+「関係性を保とうとする態度」でコミュニケーションをすることで相手から素直な返答を引き出しやすくなります。自己主張ではなく、“相互理解”を目指す姿勢が、パートナーとの対話をしなやかにします。
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「いい人」でいることをやめる勇気
優しい人ほど、自分の気持ちにフタをして、相手に合わせようとしがちです。けれど、それを続けると、「自分は何が好きで、何が嫌なのか」が分からなくなることがあります。だからこそ、こんな問いを自分に投げかけてみてください。
私はこの関係の中で、何を大切にしたいんだろう?
私が守りたいのは、安心? 誠実さ? 自由? 親密さ?
今、私はその価値に沿った選択をできている?
自分が大切にしたい価値観を思い出すことで、その場の感情ではなく、長期的に意味のある選択ができるようになります。
関係性は常に変化をする “育てていくもの”
パートナーとの関係は、最初からうまくいくものではありません。価値観も習慣も違うふたりが、「どうやって一緒に生きていくか」を話し合いながら、少しずつすり合わせていくプロセスです。たとえ完璧に分かり合えなくても、“わからないことを前提に、話し続ける”ことができれば、関係は変わっていきます。「自分を押しころさずに、相手を尊重する」というのは、決して簡単なことではありません。でもそれは、自分と相手、両方の気持ちに“思いやりを向ける”ことでもあります。自分の気持ちに耳を傾けながら、言葉を選んで、相手に伝えてみましょう。