同じグラスが見せる、まったく違う顔
驚きました、こんなに変わるのですね、大きさまで違って見えるのが不思議です。カットの仕方次第でいろんな色味やデザインが実現できる、という。
門脇さん: 削り方やその面積によって、「表面の色の起こし方」というものが変わるので、ここまで違うものに見えるんですね。同じだったものを、どこまで変えることができるか、そこがいちばんのおもしろみだとも思っています。
加工所にて
こちらは、普段制作されている加工場。陽のあたる入り口を閉め切ると、足場からひんやりとした空気を感じます。小さく聞こえるのは、ラジオから流れる音楽。
夏場は、蒸し暑くなったりしますか?
門脇さん: そうですねえ。夏は暑いし、冬場はコンクリートだから寒いんですけど、水を使うもんで、どうしても床はコンクリートじゃないとだめなんです。
実際に、カットの工程を見せていただきます。
いつも、作業はラジオを聞きながら?
門脇さん: そう、昔からの習慣ですね。それがないとさみしいというか、やっぱり静まり返った中でずっと作業するのは厳しいもんです。FMの音楽を聞いたりして。昔はAMラジオをよく聞いていたんですけど、おもしろい番組がはじまっちゃうと、そっちばっかりに集中しちゃって、仕事にならなくなっちゃう(笑)。
たのしいお話をされながらも、刃に近づけるとその目もとは真剣に。
甲高い金属音を想像していましたが、実際に聞こえてきたのはガラスの削れる薄い音。グラスを添わせると、すっと細い線が刻まれていきます。
小さいころから、こういった現場でお父様のお仕事をご覧になっていたと思いますが、やはりずっとこのお仕事には憧れがあったんですか?
門脇さん: いえいえ。ガラスを「きれいだな」と見ていることがありましたけど、たのしさや魅力がわかったのも、この仕事をはじめてからですね。学生のころは、自動車関係の仕事に憧れてみたり、いろいろ考えもしましたけど、手伝っているうちに、この手の感触がなんだか残ってしまって。手に職をつければ、いつまでもやれますからね。ずっと続けられる。これを、極めていこうかと。
継いでいく決意をされたんですね。
門脇さん: そうですね。最初の4年半は、外で修行を積みました。ここにはない技法や切子づくりも学びたかったので。そこから、あっと言う間に27年です。
今では、伝統的工芸品産業振興協会が認める「伝統工芸士」として活躍されています。
お辛い時期もありましたか?
門脇さん: もちろん人間ですから。腰も痛めますし、なんだかなあ、というときもありました。
それでも気持ちを込め続けられた27年間を、支えたのはなんだと思いますか?
門脇さん: やっぱり、切子というもののおもしろさだと思いますね。グラスをひとつひとつカットして、まったく新しい形にしていく。カットしただけでは曇っていますから、その時点では「磨いたときにどうなるか」は、あくまでイメージでしかないんです。実際に磨いて仕上がったときには、今だに新しい発見があったりします。光の入り方、色の映り方、「思ったとおりだ」ということも「こうなるのか」ということも、もちろんある。