小麦畑の近くに、カフェを作るのが夢
ところで。
澤登先生が、初めて杉窪さんに会ったとき、小麦を作ってみたいという話のほか、もうひとつ別の話をしてくれたそうです。
「近い将来、小麦や野菜を栽培しながら、畑の近くでカフェをやりたい。……そんな素晴らしい夢も語ってくれました」(澤登早苗先生)
パン職人が、なぜ小麦を育てようと思ったのか。
筆者がその理由を尋ねたところ、開口一番、「僕は完璧主義だから」という答えが帰ってきました。
「きれいなパンを作ろうと思ったら、パン生地をきれいに成形しなければなりません。それには、生地をきれいに丸める必要がある。そのためには、生地をきれいに切らなければならない。……というに、完璧なパンを作ろうと思うと、原材料に行き着きます」(杉窪章匡さん)
だから、小麦を栽培したいと考えていたと言うのです。
近い将来、小麦畑の近くでパンを提供するカフェを開く。そのための実験として、今年は小麦を育てました。
「スタッフに農業を勉強させたい思いもあったし、スタッフが業務時間内に農作業ができるかどうかを試す実験でもありました。今回小麦を選んだのは、人手と手間がかからないから。実際小麦は、思った以上に手間がかかりませんでした」(杉窪章匡さん)
次のステップとして、もう少し手間のかかる作物を少しずつ作っていこうと考えているそうです。
「来年はライ麦を栽培しようと思っています。600坪の畑で小麦を栽培しても収穫量が少なすぎます。むしろライ麦のほうが、うちとしては需要があります」
小麦を収穫する直前、杉窪さんは、小麦畑の片隅でナス、インゲン、アーティチョーク、バジルを育てはじめました。この野菜栽培も、将来を見すえた実験だそうです。
「憧れだけでオーガニック栽培をやっている人がいます。でも、ビジネスとして成立しなければ、続けられません」
「僕の商売の基本方針は、健全経営が大前提」と、杉窪さんは自著『「365日」の考えるパン』に書いています。
「僕の究極の目標は世界平和。健全な経営でなければ、仕事を続けられません。そのための実験として小麦を栽培しました」(杉窪章匡さん)
杉窪さんが考える世界平和とはなにか。
食べ物が健全な心を身体を作るというのが、杉窪さんのポリシー。そのためにオーガニックや自然農法で野菜を育てている40軒以上の農家と契約しています。一定の量を定期的に仕入れることで農家も安定した作付けを行えるし、収入も安定します。
「『365日』はパン屋ですが、自分の足元だけではなく、たとえば日本の農家さんたちのことも、世界のことも、地球のことも…広く俯瞰したいと思っています(中略)自分の仕事がどうしたら世界に貢献できるか、パン屋もそういう視点でありたいです」(杉窪章匡著『「365日」の考えるパン』)
カフェ「15℃」で提供しているアボカドバーガー(手前)といわしサンド。
アボカドバーガーは単品1050円、フレンチフライセットは1200円。いわしサンドは単品900円、フレンチフライセットは1050円(すべて税別)。
「365日」のパンと、安心安全な野菜を使ったカフェ「15℃」の料理を食べてもらうことで幸せになってほしい。農家にも幸せになってほしい。スタッフにも幸せになってほしいから、業務時間内に農作業に従事してもらうし、サービス残業もなし。
【15℃】
住所/東京都渋谷区富ヶ谷1-2-8
電話03-6407-0942
営業7時〜23時
( CAFE CLOSE 17時30分、TAKEOUT CLOSE 23時)
不定休
杉窪さんのパンや料理が大好きな人は、杉窪さんの「農家カフェ」を待ち望んでいるのではないでしょうか。杉窪さんのことなので、〈ふつうのカフェ〉にはならないはず。
世界平和のために、ワクワクするようなことをやってくれるに違いありません。
「みんなの幸せが社会貢献にもつながり、ひいては世界平和にもつながるはず。そうすれば僕も幸せです」(杉窪章匡著『「365日」の考えるパン』)
世界平和を目指す杉窪さんは、もっと先を見すえた夢も語ってくれました。でも、それはまた別の機会に。