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シックで落ち着きのある住空間建築と自然の力で生きる力が高まる

インテリア

「皆が穏やかに気持ちよく暮らせる家」「生きる力が高まる家」をメインコンセプトに始まったO邸の家づくり。無垢の材にもこだわって出来上がった空間は落ち着いたシックな空気感が特徴的

「もともとは祖父のものだったものを父が引き継いで、今はわたしが預かっているんです」とOさんが話すのはO邸の立つ敷地のこと。自分で手に入れたものではなくたまたま預ったものであり、いずれ息子さんに受け渡していくものなので独り占めをするような建築をつくりたくなかったという。
「独り占めをしない」ということには、敷地の奥側につくった賃貸スペースで暮らす人たちも合わせて「皆で共有する」という気持ちも込められていた。さらに「身の丈に合った建築をつくろう」とも思ったという。「サイズ的にもそうですし、さらに金銭的にも、価値観の面でも自分の身の丈に合った、実感のもてる範囲でつくろうと」

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隠れて見えない奥の部分に賃貸スペースがつくられている。

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手前の1階が賃貸でその上がO邸の2階のテラス。通路に沿って緑が植えられている。

こうした気持ちをベースにしつつ、この家のコンセプトとしてOさんが意識していたのは「皆が穏やかに気持ちよく暮らせる」ということだった。
さらに加えて「生きる力が高まる家にしたかった」とも話すOさん。こうした考えがたとえば無垢材を使用するという具体的なリクエストへとつながった。「建築家の浅利さんには、自然の物をできる限りそのまま使いたいんですとお伝えしました。自然物なので歪んだりあばれたりということがありますが、そうした中で、自然の力というのも感じることができますし」

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2階の造り付けの家具はすべてチークの無垢材で製作された。落ち着いた色合いとデザインで室内にシックな雰囲気が漂う。

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リビング側からダイニングとキッチンを見る。

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ダイニングからリビングを斜めに見る。奥にテラスが見える。

造り付けの家具の材として2階ではチークが、そのほかの階ではオーク材などが使用された。床はすべてオーク材だ。「こまやかすぎるものとは違って削れば何とでもなるような面もあるし、無垢材ゆえの、材そのものの美しさであるとかパワーが感じられるようにしたかった」。その結果、浅利さんはいつもの自分のデザインより多少ごつい感じのものになったというが、そこはやはり熟練の技で、ごつさよりも落ち着いたシックな空気感の漂うデザインに仕上げられている。
Oさんの自然物への強いこだわりから外壁にはタイルを使用した。「要はマテリアルをずっと愛でていく感じですね。経年変化を楽しむことができて汚れてもOK。外壁に木を使うという選択肢もあったとは思いますが、木は基本的にすごく長くもつというものではない。そういう意味では土(タイル)にするというアイデアは自然に出てきましたね」(浅利さん)

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2階ダイニングから見る。食器棚の右に1階への階段、左に3階へと昇る階段がある。空間に落ち着きをもたらすためにシンメトリックにデザインされた2つの引き戸には墨汁が塗られている。

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キッチンから見る。左の開口からは賃貸スペースにいたる通路に沿って植えられた緑が見える。

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奥の左手に玄関扉がある。外部と同じせっ器質タイルが内部にも使われている。

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張るパターンのスタディが何度も重ねられたタイルは内外で2万3千枚を使用。施工に2カ月かかったという。

当初の案は賃貸を1階に配して2階以上をO邸にするというものだった。しかし、Oさんの強い希望から手前にO邸、奥に賃貸という配置に。「お互いの生活音などを意識することなく機嫌よく穏やかに過ごせるように」との思いからだったが、浅利さんは「最初は奥行き方向で豊かに長く暮らすというイメージをもっていた」という。そして身体感覚としては長過ぎるので、ちょうど居心地が良くなるくらいの空間にレイヤー状に刻んでいくプランを考えていたが、敷地の前後で賃貸とスペースを分けて奥行き方向の長さが短くなってからもその考えはそのまま踏襲した。
「やはり人間にとって居心地のいいスケール感というものがあるので、そこに落とし込んであげるということですね。間に袖壁を入れていますがこれも居心地をつくるときにすごく大事だと思っていて、要は守られている感覚が生まれる。開放されているだけだと落ち着かないんですね」 (浅利さん)
「小さめの空間だからこそあえて区切ってレイヤーをつくって奥行きを感じるような工夫をしていろんなところに居場所をつくりましょうと提案をいただいて。そのなかで最大限豊かに暮らせるように、たとえば端の部分に開口を設けるとかいろんな工夫をしてくださいました」(Oさん)

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あえてダイニングとリビングの間に壁をつくっている。奥の壁もあってレイヤーが3つ重ねられ奥行き感が生まれている。窓際に立つのはOさんと建築家の浅利さん(右)。

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奥の壁は葉薫館と名付けられた賃貸スペースのもの。葉薫館には2世帯が入る。

打ち合わせの中で浅利さんは「建築は極力シンプルなほうがいい、余計なことをしないほうがいい」とOさんに言い続けたという。「浅利さんが“何かしたいことがあっても、それはOさんが人生を歩む中で必ず変わっていくので、いまやりたいことは家具とか置き物でしておいたほうがいい。いまの感覚だけじゃなくて、自分の根幹にあるものを大事にしたほうがいいと思いますよ”とおっしゃって。これはその通りだなっていま思いますね」。こうしたやり取りからも、室内にシックな印象のある落ち着き感が生み出されたのだろう。
さらにOさんは「浅利さんに描いていただいたスケッチからでは自分が感じ取れなかったものをいま日々の生活の中で少しずつ見つけているところです。これからもっともっとそうしたものがいろんなところで見つかってくると思うので、また自分が成長したときにそれまで見えていなかったものが見えてくるのかなと。それがいまから楽しみですね」と加える。

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テラスから見る。2階がリビングで3階が水回りスペース。

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