中国・武漢で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の感染が拡大するなか、「致死率15%、感染率83%で人類史上最凶」という情報が拡散している。しかし、これは発生当初に武漢で入院した重症患者の致死率だ。現時点の致死率は3%程度で、感染率83%も親族間のものとされており、一般化することはできない。
中国・武漢で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の感染が拡大するなか、「致死率15%、感染率83%で人類史上最凶」という情報が拡散している。
しかし、これは発生当初に武漢で入院した重症患者の致死率で、感染率についてもある家族の状況を調査したデータだ。
現時点の致死率は3%程度とされており、「人類史上最凶」も含め、誤った情報だと言える。BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。
ネット上で拡散しているのは、1月26日の以下のツイートだ。
上掲の中国語のツイートを引用する形で、すでに1万2000件以上リツイートされるなど、拡散している。
《【速報】中国と香港の最新発表、コロナウイルスの致死率は15% 感染率83%に更新した。このデータでは 人類史上最凶のウイルスです。 多分一週間後にWHOと厚生労働省が中国政府を追いかける更新します》
引用元となっている中国語ツイートのソースになっているのは、台湾のニュースサイト。たしかに、そのサイトには「中国と香港の最新の調査:武漢肺炎の死亡率15%、感染率83%」と書かれている。
このニュースで言及されているのは、イギリスの医学誌「ランセット」に掲載された中国と香港チームの論文だ。しかし、いずれも前提条件があり、その数字を一般化できないことに留意が必要だ。
「ランセット」の論文を見ると、「死亡率15%」とは武漢で2020年1月2日までに入院した重症患者41人の間での死亡率のことだ。感染者全体の死亡率ではない。
41人は全員肺炎を発症しており、うち13人がICUに入り、そのうち6人が死亡したことから「致死率15%」という計算になる。
また、「感染率83%」は、「ランセット」に掲載された、ある家族での親族間の感染率に関するデータをもとにしている。
中国・深センの7人家族を調査し、武漢の患者を見舞いに行った6人のうち5人が感染し、さらに見舞いに行かなかった1人も後に感染。さらに感染者のうち1人は無症状患者だったことを報告している。
この家族の状況を社会全体にそのまま一般化することはできない。
「人類最凶」は本当か
厚生労働省によると、1月27日正午時点での感染者は2744人で、うち死者は80人とされている。
結核感染症課の担当者によると、致死率は約3%程度と評価されているという。ただし、未発症者や軽症者を含むと、この数値はさらに変化する可能性がある。
つまり、新型コロナウイルス一般の致死率が15%とした場合、それは誤りであると言える。
さらに「人類史上最凶」という点も誤りだ。国立感染症研究所によると、2012年に中東で発生し、感染が拡大していたコロナウイルスによる新型肺炎「MERS」の致死率は34.4%だった。
ただしこれは、無症状や軽症患者を含まないデータであり、同研究所は「高齢者や基礎疾患をもつ人に感染した場合にのみ重症化する」としている。
同様の新型肺炎「重症急性呼吸器症候群(SARS)」の致死率は9.6%だった。この際も「死亡した人の多くは高齢者や、心臓病、糖尿病等の基礎疾患を前もって患っていた人」だったという。
結核感染症課の担当者は、こう語る。
「我々もWHOや専門家の見解を踏まえ、情報収集をしながらリスク評価をしていますが、現時点においてもMERSやSERSまで病原性が高くはなく、重篤になりづらいという評価がWHOの専門家委員会で出されています」
「感染性についても、すぐにヒトからヒトへと感染しやすい状況にあるわけではないというのが、現時点の我々の認識になります。少なくとも日本においてはヒトからヒトへの感染は認められていないことから、次から次に感染が広がることは考えにくい状況にあります。過度に心配されることはありません」
ただ、あくまでこうした認識は現状のもの。「WHOや中国当局とも連携しながら、今後の展開、推移を見守らなければいけないと思う」と話している。