あなたの膣は潤ってますか?
「パートナーはいるけどセックスはしていない」。そんなセックスレスの悩みが増えています。理由は相手にあることもありますが、女性側にあることも。なかには「挿入時に痛みがあるのでセックスしたくない」「疲れてその気にならず濡れない」という意見も聞かれます。植物療法士である森田敦子さんによると、その大きな原因は「膣が潤っていないこと」にありました。
日本人女性は膣まわりのケアがおろそか
ーー森田さんの著書『潤うからだ』を読んで、膣まわりもケアが必要だということを知り、とても驚きました。
みなさん、顔や体、髪、歯は専用のアイテムできちんとお手入れしていますよね。特に顔は化粧水や乳液、美容液、オイルなど入念にケアしている人も多いのではないでしょうか。ところが、膣まわりのケアはほぼしていません。たいていの人は、ボディソープとタオルでこすり洗いをして、タオルでさっと拭いて、下着を身につけていると思います。これでは、膣まわりは清潔に保てず、膣の粘膜も乾燥してしまいます。膣まわりをきちんとケアしないと、膣の粘膜が薄くなり、大陰唇が広がってたるみ、膣まわりの皮膚が硬くなり、シワシワになってしまうんです。
ーー確かに「デリケートゾーン」と呼ぶわりには、きちんとお手入れをしていません…。
常在菌がある膣まわりはデリケートです。シャンプーで顔を洗わないように、ボディソープではなく低刺激の専用ソープで洗うべき。ましてや膣内の粘膜とその下の筋肉層はpH(ペーハー)が違うので、ボディソープだと刺激が強くてしみたり痛みが出たりすることもあります。そういった背景から、デリケートゾーン専用のケアアイテムが増えているんですよ。
ーー森田さんが膣まわりのケアについて関心を持たれたきっかけは?
実は直接、膣まわりについて関心を持ったというわけではないんですよ。全日空のCAをしていたときに、ストレスで呼吸ができなくなる気管支疾患を患ったんです。気管支拡張剤とステロイドが手放せない状態だったのですが、植物療法と出会ってその効果を実感しました。思い切って、フランスのパリ第13大学の医薬学部に入学して植物薬理学を勉強したんです。薬草を学ぶ上で、解剖学や生理学もしっかり勉強するのですが、その中でなぜ性欲がわくのかといったセクソソロジー(性医学)を大学で学んだのがきっかけです。
ーー学問として性を勉強するんですね。
そうなんです。日本ではセクソソロジーが医学部にないですし、公に性について話すのはご法度になっていますよね。でも、性欲は食欲や睡眠欲と同じで、人間にそもそも備わっている本能です。性欲、食欲、睡眠欲。この3つのバランスがどうとれているかで、人間の体が決まる。性的な話題をおざなりにすることが、不妊や自律神経失調症などいろんなことに関係していると私は思います。「性欲」とか「膣」とか、そういった言葉が下ネタになってしまうのは本来おかしいことなんです。
ーー確かにそういう雰囲気はありますね。読者からもセックスの悩みを抱えているけれど、話せる人がいないという悩みが届きます。
江戸時代までは日本でも性に対してオープンだったんですよ。生理のことも、快感のことも、セクシュアリティのことも。どうやって子供を作るかということも年長者が若い人に教えていました。それは安全面だけではなく楽しみ方まで。江戸時代の春画を見ると、隣人が性行為をのぞき見していたりしますよね(笑)。見学に来たり、見せて教えたり、子供を抱っこしながらセックスしたり。そうやって、順繰りに長屋で教えていたわけです。昔の人は体の相性が医学的にも生理的にも大事だっていうのを体で知っていたんでしょうね。ところが、第一次世界大戦の後、性的な話題はクローズドになりました。生理のことも、セックスが快感を及ぼすことも、マスターベーションも教えなくなったんです。
セックスをするとβエンドルフィンが出て人にも優しくなれる
ーーセックスレスの悩みも増えていると感じます。
セックスでエクスタシーを感じると、脳内にオキシトシンやβエンドルフィンといった大事なホルモンが出て、多幸感をもたらします。それは、仕事の成功や欲しいジュエリーをもらえたとかで出てくるものじゃない。βエンドルフィンは、人にも社会にも優しくなれるホルモンだと言われています。
今の日本って、不祥事に対して関係ない人がつつく意地悪さ、余裕のなさを感じます。これって本当にセックスレス国の最たるもの。人の困ったことや悲しいことに、なぜ他の人たちがSNSで猛攻撃するのか。「βエンドルフィンが出てないんじゃないの?」「 オキシトシンは大丈夫?」 と思ってしまう。もちろん、セックスレスの人たちがみんな攻撃的だと決めつけるわけではありませんが、相手を思いやるβエンドルフィンは、体と体のふれあいから生まれるもので、なかなか他では生まれないんですよ。
ーーセックスレスが精神状態にも関係してくるんですね。
女性は、女性ホルモンの一つであるプロゲステロンの分泌が減る35歳から45歳のプレ更年期、45歳から55歳の更年期ではイライラしてきます。そこにセックスレスが重なると、ものすごくヒステリックで攻撃的になってしまうんですよね。人間も動物なので、これは医学的にはっきりしている事実です。「前はこんなんじゃなかった」って泣く女性も多くいらっしゃるんですけど、そういったことを知識として知っておくだけでずいぶん冷静になれると思います。
男性はやっぱり精子を出すものだから、女性はそれを受け取らなくてはいけない。女性は料理の腕を上げるのも大事だけど、膣のトレーニングをしておくのも大切です。膣まわりを整えておくのは自分の満足だけではなく、パートナーシップにとってすごく大切なことです。
膣まわりのケアが女性性を意識することに繋がる
ーー具体的にどのようにケアすれば良いですか?
まず、自分の膣まわりを鏡で見て、触ってみて、どんな状態かチェックしてください。大陰唇と小陰唇の間に垢が溜まりやすいので、ひっくり返して手で取ってあげる必要があります。洗いすぎはもちろんダメだけど、お湯だけでは汚れが取れないので、中に入っても大丈夫なようにオーガニックの専用ソープをおすすめしてます。次に、専用のクリームをなじませます。しっかりと保湿することを続ければ、膣まわりにもハリや弾力が出ます、また、ターンオーバーが整って清潔に保つこともできます。
次に、膣が萎縮しないように膣の中を指を使ってオイルマッサージするのがおすすめです。膣を柔らかくしておいてあげると、出産時も会陰切開しなくて済むかもしれません。産んだ後も楽だし、次も産みやすくなります。
また、お尻の穴を締めたり緩めたりして骨盤底筋を鍛えておくと、尿もれや子宮脱、子宮下垂の予防になりますよ。
ーー自分の膣を触るのは勇気がいりますが、どうして触る必要があるのでしょうか。
まずは自分の膣まわりがどんな状態かチェックをしなければ、必要なケアができないからです。見るだけでなく、清潔な指で触れて、粘液が出て潤っているかをチェックしましょう。
膣から分泌される粘液(=おりものまたはセックス時に分泌される愛液)には、目や口、鼻にある粘液と同様に、細菌やウイルスを体内に侵入させないようにブロックしたり、入ってきても体外に排出したりする働きがあります。膣の粘膜が乾いていたら、異物をブロックする力が弱まっている=免疫力が下がっていることがわかります。粘液に粘り気がなくサラサラしていると、パートナーの精子をキャッチできず、受精しにくくなります。粘液をチェックすることは健康チェックにも、妊娠力をつけることにも繋がるんですよ。
ーーアンダーヘアの処理はどうすれば良いのか迷うのですが、ないほうが良いのでしょうか。
IラインやOラインの毛は医療的に見ても、脱毛するのが衛生的です。毛がないほうが蒸れやかゆみもなくなり、カンジタやトリコモナスなどの病気にもなりにくくなります。また、長い目で見て、年をとったときにも毛はないほうがいいんです。自分で排泄処理ができなくなるとオムツをして、人に替えてもらうことになりますが、毛があると臭ったり汚れたりしますよね。その羞恥心で自尊心が崩れて、認知症になる方もいるんです。
また、膣まわりのケアをしていると、自分の女性性を意識し続けるので、結果的にセックスレスにもなりにくくなるんです。パートナーがいなかったら、マスターベーション=セクシャルセルフケアをするといいですよ。体には快感のスイッチがあるので、性欲があるのは当然のこと。恥ずかしいことではありません。これは医学の知識として知っておいてほしいことです。性的な快感を得ることは、体にとって大切なことなんです。