■固定概念はいらない。2人で導き出した一番の方法
――結婚後も2人の関係に変わりはないでしょうか?
犬山:子どももできたし、今の夫はフリーランスの仕事と家事の兼業をしているので、やはり状況は変わってきます。まず家事を彼に任せきりにするのは、負担が大きすぎるのでやめました。区の外注サービスを週3利用したり、大人のご飯はほぼ外食にしたり、家事自体の量をぐっと減らしました。
もちろん、問題もありました。たとえば彼は、育児と仕事の両立で睡眠が取れなくても決して言い出さないタイプ。もともとやさしすぎて、理不尽なことまで自分の責任だと飲み込んでしまう人なんです。一方、私は感じたことをすぐ口に出したり、行動に出したりしてしまうタイプ。私がイライラしていたら、2人とも負のサイクルに陥りかねない。子どもにとってもよくない。彼に愛想を尽かされたくない気持ちもありました。そこで自分のストレスをコントロールするために、夫婦でカウンセリングに通い出したんです。
劔:僕はカウンセリングの必要なんてないと思っていましたが、今思えばとてもよかった。
犬山:実家での介護の経験から、人は追い詰められすぎると簡単に壊れてしまうことは知っていました。育児もそれに近いところがありますよね。実際にカウンセリングを受けて客観的に意見をもらえたことで、私は自分のイライラを改善していくことができました。
劔:風邪をひいたら病院に行くのと一緒で、心も気軽に見てもらうのがいいと思います。カウンセリング後は妻もすごく調子がいいし、頑固になりがちな僕もフラットに状況を見やすくなった。ひどく短気であった彼女が、状況に応じて話し合いを持ちかけてくれることにとても助けられています。
犬山:人間関係は放っておいたらダメだと思うんです。うまくいくものも、言葉足らずだと壊れてしまうから。一緒にいれば、絶対にしんどいときはありますから。そういうときは固定概念を取り払って、2人にとって一番いい方法をとればいい。たとえば、お互いの負担が大きいときは夫婦の食事は外食にするとか。2人がもっと働きたくなったら、家事はすべて外注にしてもいいと思っていますし。
――家庭のことって、固定概念に縛られずもっと自由に決めていいんですね。最後に、円満な夫婦関係を保つための秘訣を教えてください。
犬山:いずれ「逆転婚」という言葉はなくなると思うんです。さまざまなかたちの婚姻関係があるなかで「男は外、女は内」というセオリーがなくなれば、逆転も何もない。それは性別で区切ることではなく、本来それぞれの個性で決めていいし、分担の方法もカップルの数だけあるはず。
劔:そうだね。個人的には、家事の大部分を担当したことで自分の視点も変わったし、とにかく発見が多くておもしろい。
犬山:相手の喜びがそのまま自分の喜びになる感覚を、今はとても幸せに感じています。
夫のインスタ子育て漫画を読んで、「私って甘えてばかりだな」と気づいたと語る犬山さん
■「逆転婚」しても、2人の関係に逆転はない
インタビューを終え、2人の結婚を珍しがっていた自分が恥ずかしく思えた。相手に役割を押しつけたりせず、それぞれが相手のためにできることをして支え合っている。お互いを思いやる延長に「逆転婚」があった2人だからこそ、当人たちは「逆転婚」だと感じていなかった。
頭のなかでぐるぐると考えながら、気づいたことがある。心の奥で、まだ結婚したくないと思っていた理由。それは“女性だからしなくてはいけないこと”を自分勝手に決めつけて、いつのまにか重荷に感じていたからだ。
女性だから、しなくちゃいけない。
男性だから、こうであってほしい。
そんな固定概念はもういらない。もちろん、今はまだ2人の結婚を「逆転婚」だという人が大多数かもしれないけれど。2人の話を聞いた私の気持ちがちょっと救われたように、これを読むあなたの描く「結婚」がどうか素敵なものに変わりますように。
(取材・文:紀伊国子、構成:マイナビウーマン編集部、撮影:洞澤佐智子)