好きな広告で大好きな猫を助ける
もともと小学6年生の頃からコピーライターになりたくて、大手の広告代理店に憧れて就職活動をしていました。いわゆる意識高い系の大学生で、海外の広告賞が掲載された雑誌を読み漁ったり、OB訪問を繰り返したりしていました。
エントリーシートはそれなりに磨かれてきて、なぜ広告業界で働きたいかはスラスラ言えるようになってきました。そんな時、あるOBを訪問すると「なぜ入社したいかはわかったけど、何のためにうちに来るの?」と問われたんです。
2016年、広告賞では軒並みソーシャルグッドのムーブメントがきていた時期でした。社会課題が広告によって発信され、多くの人の心をつかんでインパクトを与えるフォーマットのことは認識していました。ただ、僕の中では広告の仕事と保護猫のことがつながっていませんでした。社会人として一人前になってお金ができてから保護猫の活動をやろうと別の次元のこととして考えていたんです。
「好きな広告で大好きな猫を助けることができたらハッピーだな」
そのOB訪問の帰りの電車で、方程式が解けたような感覚になったのを覚えています。
保護猫の事業をやると決めてからはデジタルを学ぶ必要があると感じ、結局、大手広告代理店ではなくインターネット広告の会社に就職しました。「いずれ猫のことをやります」と宣言して採用してもらい、2年で退職。その後はまちづくりのスタートアップに転職して、コミュニティデザインに広く携わりました。
東京都内の家庭に引き取られた保護猫のオレンジとチャイ(neco-noteに登録されている猫ではありません)
提供写真(サムネイルも)
ーー広告業界で働いた経験を通して、保護猫に関する情報発信はどのように見えたのでしょうか。
残念ながら、社会課題の多くは世の中の人たちが積極的に望んでいる情報とは言い難いのが現実です。インターネット上で広告的な手法で届けたとしても、タイムラインでスクロールされて流れていってしまいます。
ましてや、殺処分されるかもしれない猫の情報は目を背けてしまう人がほとんどでしょう。保護猫の悲しい面を伝えるだけでは、共感は広がりにくいです。情報量を減らしてでも、ポジティブな文脈での発信や、温度感の高いコミュニティづくりが必要だと感じました。
保護団体で活動している人たちは常に多くの命と真剣に向き合っていますから、情報発信には苦手意識があるようでした。文章を書いたり写真を撮ったりすることができないわけではなく、世の中にアウトプットするためのポジティブなトーンに変換することに慣れていないだけでした。
なのでとにかく箇条書きでもいいから保護猫の情報を送ってもらい、僕たちが編集してneco-noteで届けるようにしています。保護猫にファンがつけばそれだけ団体への寄付が増えますから、1匹1匹の猫のコンテンツを充実させられるよう協力をお願いし、伝え方を試行錯誤しています。
とはいえ僕も猫好きなので、送ってもらった動画がかわいいと、それだけでテンションが上がります。猫が好きだし、猫好きの人も好き。結局、猫好き同士だからこそ連帯しやすいんですよね。
提供写真
保護猫の「卒業」を祝福する
ーー保護猫1匹ずつの「推し活」の仕組みにしたのはどうしてですか。
コンテンツをどう収益に結びつけるかは、いくつものビジネスモデルを模索しました。保護猫は家族が見つかることがゴールなので、馬主のように所有権を譲渡するわけにはいきません。
そこで、「プロセス・エコノミー」や「アイドル理論」に関する本を買って勉強しました。地下アイドルが苦労を重ねてデビューしてセンターを飾るようになるのと同じように、保護猫のストーリーに共感し、応援したいと思ってくれる人がいるのではないかと考えました。
また、アイドルが「卒業」するのはファンにとっては不可抗力ですが、祝福すべきことです。保護猫も同じで、家族が決まったら「バディ」を解消することになりますが、ファンとしてはとても喜ばしいことです。権利もリターンもなくても、ただ推しの幸せを願い、応援する行動そのものに幸福感を感じられる「推し活」の仕組みがしっくりきたんです。
出典:neco-note
ーープロフィールにハンデが記載されている保護猫も少なくありません。猫白血病ウイルス感染症(FeLV)や認知症、けが......過去に薬品をかけられたようだという猫もいました。
生活環境や虐待の影響で病気やけががある猫は、通院や食事などのコストや介護の手間がかかるうえ、譲渡もうまくいきづらい現状があります。
保護団体にいる限りは適切に飼育されますが、保護できる数には限りがあるため、なるべく譲渡につなげていかないと他の猫を受け入れることができなくなってしまいます。
また、譲渡につなげるには人馴れしていない猫を丁寧にケアして人馴れさせる必要があるため、長くいる猫が寂しい思いをすることもあります。できればその子にしっかりと愛情を注いでくれる家族に早く会わせてあげたいです。なので譲渡にハンデがある子をなるべく掲載し、事実をきちんと伝えるようにしています。
ーーneco-noteのローンチから1年が経ちました。今後の見通しは。