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ドラマも話題! 漫画「あなたがしてくれなくても」著者に聞く、セックスレスを描く理由

放送中の話題のドラマ「あなたがしてくれなくても」。放送後は毎回ネットニュースやSNSで大きく取り上げられるほどの人気ぶりに。登場人物の細かな感情の揺らぎを描き、多くの共感を呼ぶ本作について、原作コミックスの作者、ハルノ晴先生にじっくりお話を伺いました。

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ハルノ晴『あなたがしてくれなくても』(双葉社)

みちと陽一は結婚して5年目。はたから見たら仲の良い夫婦だが、実は2年もセックスレス状態が続いている。子供も欲しいし何より夫に愛されたいと願うみちが、レスを解消したいと陽一に気持ちを打ち明けるが、なかなか取り合ってもらえない。そんな中、ひょんなことから同僚の男性・誠もみちと同じようにセックスレスに悩んでいることが判明。お互い相談を重ねるうちに、徐々に惹かれあっていく。

普段はほとんど取材を受けないというハルノ先生に、原作漫画の大ファンであるライターのEとWの二人(共に既婚)が、あれこれインタビュー。リアルすぎる作品が生まれた背景について伺いました。

お話を伺ったのは

漫画家
ハルノ晴さん
漫画家。2017年に双葉社「漫画アクション」でスタートした『あなたがしてくれなくても』が、今春ドラマ化し話題に。希望と絶望に翻弄されながらも成長を遂げる少年少女を描いた『僕らは自分のことばかり』(講談社)も好評。

「セックスレスの男女が出会ったら……」そんな想像から生まれたストーリー

E:最近離婚原因としても話題を集めているセックスレス問題ですが、ハルノ先生がこの作品を描こうと思ったきっかけを教えてください。

ハルノ先生(以下、ハルノ):おっしゃるように、最近いろんな場面で「セックスレス」という言葉を目にするようになりました。言葉のキャッチーさから注目を集めているのもあると思いますが、少し前までは表沙汰にしないのが美学とされていた夫婦の問題について、声を上げる人が増えているんだと思うんです。そんなことを考えているうちに、だんだんと「セックスレスに悩む男と女が出会ったら、どんな化学反応が起こるんだろう?」という興味が湧いたのがきっかけです。

W:漫画もドラマも、いよいよクライマックスに近づいてきていますが、ストーリーの展開や着地点は初めから決まっていたのですか?

ハルノ:なんとなく決めてはいたのですが、細部までは決めていませんでした。ありがたいことに読者の方から好評をいただいて、なんとかここまで連載を続けてきましたが、今はキャラクターそれぞれが自分の足で歩いて物語を作ってくれているという感じですね。中には全然思い通りに動いてくれないキャラクターもいて、当初思い描いていた結末とは違った方向に進んでいます。

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物語の冒頭、主人公のみちが同僚の妊娠報告を聞いてネガティブな感情を抱くシーン。ハエの交尾にも嫉妬するほどセックスレスに悩んでいた。「私もレスで悩んだ経験が。妊娠報告を受けるシーンのみちと全く同じことを思っていて。すごく心がすさんでいました」(E)

W:セックスレス=夫婦仲が冷え切っているという単純なことではなく、「パートナーが嫌いではないのに、なぜできない?してくれない?」という、登場人物たちの複雑な心の動きがとてもリアルです。実際に経験者にリサーチをされているのでしょうか?

ハルノ:実はリサーチはほぼしていないんです。セックスレスについて基本的なことは調べたりしましたが、まずは主要キャラクターの人格や個性を形成して、そこからは「この人だったらこういう時どうするかな?」と問いかけながら、キャラ一人ひとりに行動を委ねていった感じです。ただ、登場人物がアクションするたびに編集さんからはかなりの質問を受けました。「みちはなぜこうしたんですか?」「誠はこう動かないんですか?」と。その質問に答えるうちに、私の中でもどんどんキャラクターの思考や行動パターンが明確になり、ブレることなく描けた気がします。

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2年のレスを経て、思い切って陽一を誘うみち。あえなく撃沈し、朝まで悶々と思い悩む姿は実にリアル。「セックスレスではなくても、こういうシーンは夫婦ならあるあるなのでは? 自分の気持ちが一方通行だと感じると、不安が不満になって苛立ちになって…。この感情に覆われて眠れぬ夜を、私も幾度繰り返したことか…」(W)

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みちの同僚・誠は、ファッション誌の副編集長でもある妻・楓と二人暮らし。誠は楓を献身的にサポートするが、仕事に忙殺される楓は誠の優しさに感謝することもなく、夫婦の時間もほとんどない。「同じ業界の人間として、楓のオーバーワークが心配に(笑)。忙しいと夫を気遣えなくなるのは私にも身に覚えあり」(E)

E:実は私もセックスレスに悩んだ時期があったのですが、「これは私のことなのでは?」と思うほどみちの感情描写がリアルでした。そんなところが読者の共感を呼んだのだと思うのですが、先生の中でみちはどんな女性なのでしょうか?

ハルノ:大好きな男性との結婚の先に子供のいる幸せな家庭を夢見ていた、ごく普通の女性です。それはみちだけでなく、仕事に追われて家庭を蔑ろにしがちな楓も、不幸恋愛体質の陽一の同僚・三島も、みんなそう。事なかれ主義でスルースキルが高い陽一だってどこにでもいる普通の男性なんです。だからこそ、読者の方々と重なる部分が多くあったのでは? と思います。みんなが一生懸命で、誰も悪くない。誰かのせいにして主人公を救うのではなく、その問題に対して一人ひとりがどう成長し、乗り越えていくのかを描きたいんです。

世間からの反応に「こんなにも多くの人がレスに悩んでいるのか」と実感

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陽一の母から、孫が欲しいとほのめかされるシーン。陽一に対するみちのフラストレーションがストレートに描かれている。「義母からのプレッシャーは私も経験あり。自分だけではどうにもできない問題だけに、夫に責任の所在を求めてしまう気持ち、わかりみがすぎる!」(W)

E:漫画やドラマのヒットを受け、先生ご自身が何か感じられることはありましたか?

ハルノ:マンガ配信サイトの口コミ欄を見ると実際にセックスレスに悩むコメントがとても多くて。今までセックスレスの問題って人に話せなかったと思うんです。でも、この作品とコメント欄を通じて「悩んでいるのは自分だけじゃないんだ」と、皆さんの気持ちが少しでも軽くなったら良いなと思います。

W:セックスレスに限らず、夫婦間でのすれ違いに悩んでいる人には響く部分が多いと思います。私も夫婦喧嘩をして悶々とすると、寝る前に「あなして」を読んで心を鎮めています(笑)。

ハルノ:そういう方、多いみたいです。コミックスが紙よりも電子の方が動くように、ドラマもリアルタイムよりTVerなどの方が視聴数が多くて。「あぁ、みんな自分の時間にこっそり見てくれているんだな」って。

「セックスレスの根本は性にオープンになれない国民性」

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なぜしてくれないのか問い詰めるみちに、陽一が本心を打ち明けるシーン。それまではみちを応援していた読者も、ここばかりは陽一の言葉に心を動かされた。「『男性=セックスしたい生き物』という刷り込みがあって、するもしないも男性の気分次第だと思っていた私にはかなりショックなシーンでした。これが男性サイドのレス問題を考えるきっかけに」(W)

W:最近では離婚の原因にも挙げられるようになったセックスレスですが、その根本にある問題はなんだと思われますか?

ハルノ:一つに絞ることはできないけど、国民性が大きいのかな? と思います。日本は先進国でありながら性教育がとても遅れていて、いまだにセックスをタブー視するところがありますよね。夫婦間の問題を人さまに話すのは恥だとか。今まで美学とされていたそういう価値観が邪魔をして、友達に相談することもできず悩みが膨らんでいく気がします。もっとオープンに話せれば、一人で抱え込まずに早い段階で解決できるかもしれませんよね。

E:私はセックスレス=夫に愛されていないと思われるのが嫌で、人に相談することができませんでした。

ハルノ:それも大きいですよね。人に話せないだけではなく、それが自信喪失につながってしまう。でも、セックス以外にも夫婦間の愛情表現はいろいろあると思うんです。セックス以外のスキンシップだったり、夫婦だけの晩酌の時間だったり。レスになったとしても、愛されている自信があれば乗り越えられるのかな?とも思います。もちろん、苦しいなら別々の道を歩むのも一つの選択肢だと思いますし、どちらが正しいかはその夫婦ごとに違いますよね。

結局は当事者同士の問題。夫婦の数だけ理想の形がある

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誠とみちの関係を知った楓が、みちを呼び出して問い詰めるシーン。「たかがレスごときで」という楓に、普段は大人しいみちが反論する。「しない側とできない側の対峙を描いたシーンは、物語最大の見せ場! ネガティブに悩みがちなみちが恐怖だった楓に向かって意見する姿に、思わず『頑張れ!』と応援する気持ちに」(W)

E:先生が思い描く理想の夫婦像とは?

ハルノ:正直わかりません。恋愛や結婚って、外面と実態が全然違うと思うんです。一見仲が良さそうに見えても家に入ったらほとんどコミュニケーションがなかったり、外では喧嘩ばかりしているのに二人きりの時はとても仲が良かったり。100組の夫婦がいれば100通りの夫婦の形がある。それぞれがその関係性に満足していれば、他人がとやかく言う問題ではないと思うんです。夫婦生活は当人同士の問題なので、周りの「こうあるべき」に惑わされないことが大切ですよね。

W:先生ご自身が憧れる夫婦像はありますか?

ハルノ:明確な憧れはないのですが、何年も前に祖父が亡くなった時、祖母が亡骸に口づけをしたのを見たんです。普段は人前でそんなことをする人ではなかったので、「あぁ、本当に愛していたんだな」と思ったのを覚えています。今でもふとした時に思い出すのですが、最期の時に素直に愛情表現をできる関係性には憧れますね。

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