まゆみさん「私は、どうしても『察してよ』と思ってしまうところがありました。私がこうやってるんだから、あなたもこうするのが当然でしょ?みたいに思い込んで、勝手にモヤモヤしていたんです。
でも、一緒に暮らしていくうちに、人間は察するなんてことはできないのだから、話し合いで解決するのが一番だと気づきました」
「もう一つ、大きかったのは、出産のリミットが迫っていたことです。私自身は子どもを持ちたいと思ったことはなかったのですが、本当にそれでいいのか、佳太くんと話し合うようになりました。
ただ、妊娠・出産についてはなぜか、結婚していて子どもを産める体だと産むのが当然といった空気もありますよね。そんな中だと、『産まない理由』を必要以上に言葉にしなきゃいけないように感じて、別の苦しさもありました。そのモヤモヤまで含めて、冷静に深く話せる相手がいたのは良かったなと思います」
中村まゆみさん・佳太さん提供
パートナー同士が良い関係を築き、対等であり続けるためのカギは「話し合い」。そう気づいた2人は、今では徹底的に考えを言葉にし、共有します。
佳太さん「そもそも、『徹底的に話し合うことが大事だ』ということを共有するのが大事だと思います。僕ら2人は、今は何があっても徹底的に話し合おうと決めているので、『話し合いたくない』という選択肢はないんです。
でも、これって、信頼関係がないとできないので、まずはお互いに相手の言うことを聞いて、ちゃんと2人の妥協点を見つけるための話し合いをしよう、という前提の共有が必要です」
まゆみさん「話し合いってとても面倒くさいし、疲れていて話し合いたくないと思う時も正直あります。でも、モヤモヤを流してしまうと、後からまたその問題がやってくると思うんですよね」
2人が話し合いをするときは、モヤモヤをぶつけ合うだけでなく、問題を解決するための仕組みやルールまで一緒に考えるそうです。
佳太さん「話してお互いの気持ちがわかることももちろん重要ですが、次に同じようなモヤモヤが起こらないようにするためにはどうしたらいいのか、解決策まで決めるのがポイントだと思います」
2人が対等でいるために
冒頭で紹介した、「ジェンダーギャップ解消のためのメディア関係者へのお願い」も、2人の間にあったモヤモヤを解決するための話し合いから派生して生まれたアクションのひとつだったのです。
SNSやさまざまなメディアを通じてこの「お願い」が拡散された結果、2人のもとに訪れる人々にも変化がありました。例えば、普段の生活の中でジェンダーギャップを感じた女性客がお店でモヤモヤを吐露したり、男性客が自身のパートナーを「奥さん」ではなく「妻」と呼ぶようになったり。
まゆみさん「不当な扱いへの怒りやモヤモヤを、私たちのお店でならオープンに言っても大丈夫だし、シェアできると思ってもらえているのはうれしいです。営業さんも、前より私に話しかけてくれるようにはなりました」
中村まゆみさん・佳太さん提供
そして佳太さんは、こんなふうに周りの人々まで含めて変わっていくことこそが、夫婦やカップルが対等なパートナーシップを保つためには必要だと語ります。
佳太さん「僕ら2人の関係においては、話し合うことで対等でいられる、という共通認識を持っていると思います。でも、本当の意味で対等なパートナーシップについて考えたときに、やっぱり2人だけの問題ではないなと僕は考えています。
僕らがどれだけ対等だと思っていても、 社会にジェンダーギャップがあると、2人が社会から受けるストレスには差が出てくる。現に、まゆみさんのほうがお店や社会で傷つく場面が多いわけです。一方だけが傷ついている状態で、本当に対等な関係とは言えないような気がしています。
そして、その傷つきはどうしても、夫婦間だけでカバーできるものではないですよね。だから、真の意味で僕らが対等になるためには、社会のジェンダーギャップも解消されないといけないんだと思います」
夫婦の問題、2人の問題だとされがちなことも、根っこを見つめると社会と紐づいた問題なのかもしれません。まゆみさん・佳太さんは互いに真摯に向き合いながら、社会に向けた発信も続けています。
【特集】結婚しても、しなくても
結婚にまつわる選択は、もっと自由であっていい。
誰かに決められた型の中で答えを探すのではなく、「自分らしさ」を手がかりに。自分の選択と向き合い続けているさまざまな立場の人たちに話を聞いています。