京都にあるコーヒー焙煎所「大山崎 COFFEE ROASTERS」。お店を営むのは中村まゆみさんと中村佳太さんの2人です。お店の共同経営者として、そして夫婦としてほぼ24時間をともにするという2人が考える、本当に"対等"なパートナーシップについて話を聞きました。
妻の名前を先にしてほしい
「中村まゆみと中村佳太の両名の名前を紹介・掲載いただく場合には、『中村まゆみ・中村佳太』の順番での紹介・掲載をお願いいたします」
2022年、まゆみさんと佳太さんは「ジェンダーギャップ解消のためのメディア関係者へのお願い」を出しました。
ジェンダーギャップ解消のために、お店を取材して下さるメディアにも対応をお願いすることにしました。伝わりますように。pic.twitter.com/gAk9EOLb0K
コーヒー焙煎所がなぜジェンダーの話を?と思う人もいるかもしれません。しかし、2人がフェミニズムや男女の対等な関係性づくりについて考え始めた背景には、お店を始めたからこそ見えてきた、ある問題がありました。
例えば、営業に来た人が佳太さんにだけ名刺を渡す、佳太さんのほうだけを向いてしゃべる、2人で取材を受けていてもいつも佳太さんに質問をする……。一緒にお店に立っていても、2人に関わる人々からの反応にはジェンダーギャップを感じたと言います。
お店に立つ中村佳太さん(左)・まゆみさん(右)
中村まゆみさん・佳太さん提供
佳太さん「僕は最初は気づいていなかったのですが、まゆみさんはモヤモヤを抱えていたようで、4〜5年前からそういう話を僕にしてくれるようになりました。
当時、MeToo運動が盛り上がったり、フェミニズムの本が多く書店に並び始めた時期だったのもあり、僕も現実的な問題として考えるようになりました」
当時を振り返り、まゆみさんはこう語ります。
まゆみさん「会社員として働いていたときは、夫の存在は職場では見えないので私は『個人』として扱われていたのに、夫婦でお店を始めた途端に変わったんです。夫にすべての決定権があって、私はそれに付いていくだけのように見られてしまって」
「店に立つのも、取材を受けるのもつらくなってしまって、一時期は『もう私は取材は受けない』と言っていました。まるで私は見えていない存在かのように扱われるので、精神的にすり減ってしまったんですよね」
最初は躊躇したものの、「こんな状況を変えるためには、やるしかない」と考えた2人は、メディア向けのお知らせを出すことになりました。
家庭でも50:50を目指したい
お店を始めたのは2013年。もともとは東京で会社員として働いていた2人でしたが、特に佳太さんの出張が多く、ともに過ごせる時間が少ないことに悩んでいました。
そんな中で2011年に東日本大震災が発生。これが改めてライフスタイルを見直すきっかけになり、2人で決めた新しい暮らしが、京都の大山崎町でコーヒー焙煎所を営むというものでした。
現在はともに店主として仕事をするまゆみさんと佳太さん。お店での業務はきっちり半分に分かれています。焙煎は佳太さん、それ以外の出荷準備やオンラインショップの運営はまゆみさんが担当しています。
まゆみさん「人間って得意不得意があるじゃないですか。私たち2人は仕事においては、たまたま結構はっきりわかれたので、話し合うまでもなく、自然と分担できました」
オンラインで取材を受ける中村まゆみさん・佳太さん
OTEMOTO
その一方で、2人は生活を共にする家族でもあります。家庭内での役割分担も、仕事のようにうまく分かれているのかと思えば、そうではないようです。
まゆみさん「今はなるべく50:50にしようと思っていて、最近はしっかり話し合って家事も分担できるようになってきました。でも、数年前までは全然できていなかったです。
というのも、私はものすごく家事にこだわるんですよ。洗濯物の畳み方とか、器の向きとか、本当に細かいものまでこだわりが強いので、佳太くんがやってもそこまでできていなかったら余計にモヤモヤしてしまって(笑)」
佳太さん「僕はひとり暮らしの経験はあったのですが、家事への意識は低かったです。仕事と違って、家事になるとほぼまゆみさんの方が得意っていう状況になってしまうんです。
でも、だからといって、得意なまゆみさんに全部やってもらうとなると、それは対等な関係ではないじゃないですか。だから、ここ数年はしっかり話し合って分担しています」
「察してよ」をなくす対話
仕事であれば話し合いで決める、という場面はよくありますが、夫婦やカップル間の話し合いはなんだか難しいと感じる人は多いのでは。佳太さんも会社員時代やお店を始めた当初は忙しさを理由に、しっかりと時間をとって話すことができなかったと振り返ります。
それに対して、まゆみさんは次のように続けました。