1200年以上の歴史をもつ古都・京都には、古くから続くさまざまな商いがありますが、今回は柚子の味噌一筋300年の「八百三(やおさん)」の歴史と看板商品「柚味噌」をご紹介します。令和の時代まで看板商品1つを一子相伝で受け継ぐお店です。
魯山人の自著、自刻による看板を掲げるオフィス街の老舗
高層建築が立ち並ぶ烏丸御池界隈。駅のある御池通から南に1本下がった姉小路通にある「八百三」は、その一角だけオフィス街の中心地であることを忘れるような昔ながらの京町家です。「柚味噌」の文字は陶芸、絵画、書、篆刻、刻書など多才に活躍した北大路魯山人の自著、自刻によるもの(表のものはレプリカ)。
「柚味噌」の看板が目立ちますが、屋号は「八百三」。控えめですが、暖簾に名前があります。名前から想像されるとおり、初代は野菜・果物・乾物を扱う商いで創業。精進料理の修行をした後、材料にこだわった千利休の好みに、時代の流行りを加味して考案した「柚味噌」が評判になり、精進料理の仕出しで皇室や社寺からの御用達となったそうです。
外に飾ってある看板は実はレプリカ。本物は店内に飾られています。大正3年(1914)作、魯山人がまだ福田大観と名乗っていた頃の作品です。当時の看板は書家が文字を書き、彫刻師が彫るのが主流でしたが、こちらはその両方を魯山人本人が手がけています。柚味噌の文字は陰刻彫、銘は陽刻彫と技法を使い分け、胡粉で色付けした看板は、美術館に貸し出しされるほど美術的価値の高い作品です。
床は往時のままの姿を残す石畳。味噌の温度を冷んやりと保つのに適していました。襖戸の籠目や色を交互に編んだ矢羽根網代の天井など細部にまで昔の職人さんの技が詰まっています。
ぽってりとした柚子の容器がかわいい、唯一の看板商品「柚味噌」
左から「柚味噌 柚型陶器入り」510g 7000円、220g 4000円、70g 2850円
さて「八百三」といえば「柚味噌」。"ゆずみそ"ではなく、"ゆうみそ"と読みます。「八百三」が約300年間一子相伝に守ってきた看板商品です。特別感を印象付けるのが柚子を模したぽってりとした器。中でも小サイズは一度は廃盤になったのですが、多くのお客さまからの声で復刻されました。絵付など職人の手によるもののため、1つずつ微妙に色合いが違うのも手作りならではの味わいです。
香り高い柚子が育つことで有名な京都市右京区奥嵯峨・水尾
蓋を開けるとみっちりと詰まったオレンジ色の味噌。ツンとツノが立つほどの硬さです。柚味噌を使い切った後の容器は、ジャムを入れたり、金平糖を入れたりとみなさん思い思いの使い方をされていて、家族分を揃えて茶碗蒸しの器にされている方もいるそう。素敵ですね。
「柚味噌 曲物入」(小)130g 980円、(大)200g 1400円
陶器以外に、曲物や木箱に入った商品もあります。曲物入(大)や陶器、木箱入りに使用されている赤短冊は東本願寺第二十三代法主の揮毫。
さまざまな料理を輝かせる名脇役「柚味噌」
「すりきりいっぱい」詰まった柚味噌。陶器の器に比べるとお手頃で、自宅用や気をつかわない相手への手みやげにぴったりです。はじけそうにみずみずしい茄子が手に入ったら田楽味噌にしたり、サラダや蒸し鶏にかけたりと使い方は無限。柚味噌を使ったおすすめのお料理の一例が公式WEBサイトに掲載されているので参考にしてみては?
お試しサイズ 100g780円~
かつては、近所の人が空の容器を持ってきたときに量り売りしていたものをコロナ禍以降にパックでお試しサイズの販売を始められたそう。京都での2泊以上滞在する観光客の中には、こちらを宿泊先で試してみて次の日におみやげとして購入しにくる人もいるそうです。
八百三を愛した文人墨客の書画が使われた包装紙や掛け紙。こちらの紙袋は富岡鉄斎のものです。老舗の風格を感じますね。
家に帰ってさっそく使ってみました。トーストの上に柚味噌を塗って、生のバナナを重ねてさらに少し焼きます。バナナのねっとりした甘さと柚子のほんのりとした甘さと酸味と味噌の塩っけが混じりあって最高の味わい! 朝からテンションがあがります。