食事などを無料もしくは低額で提供する「こども食堂」。近年では、高齢者なども集う多世代の居場所として、全国に広がっています。しかし、その運営主体は市民活動やボランティアが多半。支援団体や企業のサポートは、これまで以上に重要となっています。地域の居場所づくりを支援する、認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえとスターバックスの取り組みについてご紹介します。
家でも学校でもない、こどもたちにとっての「第3の居場所」。そのひとつとして近年注目されているのが、食事などを無料もしくは低額で提供し、誰もが気軽に訪れることができるこども食堂です。
こども食堂という概念が初めて生まれたのは2012年。東京都大田区にある八百屋の店主・近藤博子さんが店の一角で始めた取り組みがきっかけでした。こどもたち、そして地域の居場所として生まれたこども食堂は、2022年度時点で全国7000か所以上に増加しています。
提供:認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ
現こども家庭庁が2023年3月に公表した「こどもの居場所づくりに関する調査」では、30歳までのこども・若者の計2036人のうち約72%が「家や学校以外に居場所がほしい」と回答。
また、内閣府が2018年度に7か国の13〜29歳を対象に行った調査では、悩みや心配ごとを「誰にも相談しない」と回答した割合は日本は19.9%。これは、7か国中で最も高い結果となっているなど、国内では孤独を感じている若者が多いことがわかります。
『ドラえもん』の世界はもうない
「若者たちの居場所となるこども食堂の輪を全国に広げていくためには、地域、行政、支援団体、そして企業の連携が欠かせない」と語るのは、こども食堂の支援活動を行う「むすびえ」に2021年から参画している遠藤典子さんです。
「こどもたちが、学校や家庭以外の居場所をもてていないという現実があります。学校から家に帰り、みんなが空き地に集まって、ボールを飛ばして近所の人に叱られる…。さまざまな人とのつながりがある、『ドラえもん』のような世界は今はないのです」
「こども食堂の支援を通じて、誰も取りこぼさない社会をつくる」をビジョンに掲げ、2018年に発足したむすびえ。こども食堂が全国どこにでもあり、誰もが安心して行ける場所とするための環境整備を支援している背景のひとつには、運営主体の割合として任意団体が最も多いという実態があります。
「全国にあるこども食堂の目的や思いはさまざま。意外と知られていない事実ですが、こども食堂にはこどもだけでなく保護者や高齢者も集うなど、多世代が交流し、つながりが生まれています。こうしたあたたかな居場所としての役割もあり、各地の地域づくりにも貢献しているのです。しかし、運営主体は任意団体、つまり市民活動やボランティアとなっている場合が多く、こども食堂の多くが運営資金の不足という問題を抱えています」
それぞれが手を取り合って
市民活動やボランティアに頼りきりにするのではなく、こども食堂の存続や設立のために支援を継続的に行っていく。そのために欠かせないのは、寄付や支援物品のサポートを行う企業の存在です。
むすびえとパートナーシップを結ぶ企業のひとつであるスターバックス コーヒー ジャパンでは、売り上げの一部を寄付するなどのサポートを実施。スターバックスの澤田祐宜さんは、取り組みを行っている背景には同社ならではの思いがあると語ります。
「スターバックスのミッションの一節には、『人と人とのつながりが生みだす無限の可能性』とあります。これを社会課題のひとつでもある地域の居場所と重ね合わせ、誰もが自分の居場所と感じられるような場所づくりのために、さまざまな取り組みを行っています」
写真提供:認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ
その実現のために意識しているのは、地域、企業、消費者の誰にとっても良い「三方よし」の循環構造。持続可能な社会のためにそれぞれが手を取り合うという、むすびえとも価値観を同じにする考え方です。
フードロス削減のため、在庫状況により商品を20%オフで販売する取り組みも行っているスターバックス。むすびえに昨年寄付したのはその売上の一部で、新潟県内のこども食堂の運営をサポートする県域ネットワーク発足と運営のために活用されるなど、こども食堂の持続的な運営のための仕組みづくりの支援を行っています。
また、12月25日までのホリデーシーズンには「Be a Santa ドネーション」と題した寄付プログラムも実施。ドリンクの売り上げの一部を活用し、フロランタンやポップコーンなどスターバックスのフードをホリデーギフトとして全国のこども食堂に届けるなど、この時期ならではの取り組みも行っています。
左から、スターバックス コーヒー ジャパンの澤田祐宜さん、認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえの遠藤典子さん。手にしているのは、「Be a Santa ドネーション」で配られたホリデーギフト。
Hirohiko Namba / OTEMOTO
企業にとってもプラスに
これまでの長いコロナ禍の影響で、消費者や地域とつながる機会を持ちにくかったスターバックスのパートナー(従業員)。一部の地域では、プログラムを通してスターバックスのパートナーがこども食堂を訪問し、こどもたちと一緒に「バリスタ体験」を実施する機会も得られたことで、「地域とのつながりの大切さを感じる」と話すパートナーもいたといいます。
こどもたちのみならず、高齢者や地域住民らの居場所としても全国に広がるこども食堂。多世代が集うことができる居場所を拡充し、存続していくためのカギとなるのは、さまざまなコミュニティの円滑な連携だと言えるのではないでしょうか。