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今治生まれのタオルメーカーが「いいものを安く」を目指さない理由。「1社1社がとんがれば産地も繁栄する」

メーカーが前に

一方、今治タオル工業組合のほうでは2006年に「今治タオルプロジェクト」がスタートし、佐藤可士和さんによるブランディングが花開いていました。僕は民事再生法の適用を申請した2003年に理事を退いたので歯がゆい気持ちもあったのですが、おかげで今治タオルの生産量は2010年にいったん下げ止まり、産地消滅を免れることができました。

とはいえ、タオル生産量は再び減少傾向となり、2023年末の組合員は79社。厳しい状況に変わりはありません。

「今治タオルの知名度が上がったのだから、より一層メーカーが前面に出ていってもいいんじゃないか」。僕はずっと同じことを言い続けているので、組合の中では異端児かもしれません。

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本社には「今治ファクトリーストア」が併設されている
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

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というのも、わが社に届くお客さんからのメールで、「今治タオルを買ったら、IKEUCHIじゃなかった」「今治タオルなのにオーガニックじゃなかった」といったお問い合わせが少なくないんです。数十のメーカーがつくっているという産地構造が知られておらず、特定の1社が今治タオルをつくっていると誤解されているのです。

今治タオルの中でも組合が定めた独自の品質基準をクリアした商品には、赤青白の「今治タオルブランド認定マーク」がついていますが、ここにはメーカー名の表記がありません。裏面の4桁の認定番号を検索すればメーカーがわかる仕組みになっています。

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オーガニックコットンの糸はデリケートで、温度や湿度によって状態が変化する
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

自分でやってみたからわかるんですが、ものづくりを一生懸命している人たちは、売ることが得意ではありません。販路を開拓するのも大変です。たとえメーカー名が前面に出なくても、今治タオルの一つとして継続的に売っていけるメリットが大きいという事情はわかります。

ただ、今治タオル79社には79通りの特徴やものづくりの理念があり、各社のタオルに対する思いも違います。うちのタオルが好きだという人が他社のタオルを買って喜ぶかどうかはわからないし、その逆もあります。だからこそ、「79社ぶんのタオルを使ってみたら初めて今治タオルがわかる」といったコミュニケーションができたら、自社だけでなく産地としても繁栄していくのではないでしょうか。

例えば、眼鏡の聖地と呼ばれている福井県鯖江市には、金子眼鏡さんをはじめ、特徴のある自社ブランドが多数あります。複数の自社ブランドがとんがった形で存在している産地はすごく強いし、熱烈なファンがついてくれるようになるはずです。

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Akiko Kobayashi / OTEMOTO

そうして、お客さんが好きなブランドを見つけたら、今度は各メーカーがレベルを上げることで、しのぎを削っていく。タオルの吸水性に関する組合の品質基準で、タオル片を水に浮かべて5秒以内に沈み始める「5秒ルール」がありますが、それを満たしたなら、次は「うちは3.5秒に挑戦する」と宣言すればいいんです。

同じ製品をつくり続けながら、見た目を変えることなく品質を上げるのはとても難しいことですが、そうすることでお客さんを飽きさせず、満足してもらい続けることができると思うんです。

もはやメーカーというより僕だけがとんがっているようですが(笑)、イケウチオーガニックは産地があるからこそ生きていけるので、産地を持続させ、全体的にレベルを高め、繁栄させなければならないという危機感を強く持っています。

産地のためにできること

産地に対してできることとして、今わが社が力を入れているのが、人材育成のための活動です。僕の母校である今治市の乃万小学校の2年生に毎年、工場見学に来てもらっています。

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会社見学にきた小学生に説明する池内さん
出典:IKEUCHI ORGANIC 公式note

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