人がいてこそのテロワール
提供:タケダワイナリー
「経営者としてワインづくりに携わると、お客様に買ってもらうための方法や、 経営においては利益を出すための売り方、社内外との円滑なコミュニケーションについても考えなくてはいけません。そういったことを考え始めると、さまざまなことが急に見えてきたんです」
それは「自分は良いワインをつくる技術者だ」という自己中心的な意識だけだったころには見えていなかった景色でした。そして何より感じられたのは、兄が背負っていただろう重圧や責任。「もし兄が生きていたら、傲慢で独りよがりな技術者のままだったかもしれない」と語るほど、経営に携わるという経験は岸平さんにとって大きな転機となったのです。
2008年に開催された洞爺湖サミットでは、昼食会で各国の首脳にスパークリングワインの「ドメイヌ・タケダ《キュベ・ヨシコ》2003」が振る舞われるなど、タケダワイナリーのワインは国内外で高い評価を受けています。
世界中の愛好家をも唸らせるワインが生まれる背景には、ブドウの味わいを最大限に引き出すテロワールにあると岸平さんは考えます。
「上山は元々昼夜の寒暖の差も大きく、ブドウの栽培には適した気候なんです。栽培しているブドウも、デラウェアやマスカットベーリーAといった日本で長く栽培されている品種。また、農薬や化学肥料を使わない土を、健全な状態で管理した栽培環境を保ち続けてきているので、そうした地道な成果も味に出てきていると思います」
提供:タケダワイナリー
テロワールを構成するのは、土地と気候、風土、そして「人」。父親と兄も「この地に根を張り、ブドウをつくり、ワインを醸す。それがワイナリーなんだ。間違っても、原料や醸造を他の土地に依存する”ワイン屋”にはなるな」とよく口にしていたといいます。
良いワインをつくるために尽力している人々がいるということも、タケダワイナリーのワインが持つ唯一無二のテロワールだと岸平さんは話します。
良いワインをつくるための改革を続けながらも、100年以上前にワインづくりを始めた土地が持つ個性も蔑ろにしない。今は亡き兄が口にしていた言葉を、岸平さんは今でも大切にしています。
「兄は生前『自分たちはワイナリーの歴史の礎なのだから、その石のひとつにならなければいけない』と語っていました。同じ品種のブドウを栽培しワインをつくっても、その年によって気候などが違うため、毎年の課題も変わります。課題を地道につぶしていくことで、この土地らしいワインの姿もブラッシュアップされていく。繰り返すことを厭わない、それこそがタケダワイナリーが目指すワインづくりの真髄なのです」