今週のさそり座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
だんだん“われ”が消えていく
今週のさそり座は、淡々と自分の仕事に没頭していくような星回り。
「独り句の推敲をして遅き日を」(高浜虚子)は、昭和34年の春、作者が85歳で亡くなる9日前に詠んだ句。決して自分自身について詠んだ訳ではなく、あくまで弟子の十七回忌に寄せて、その面影を「独り句の推敲をして」と表現したのでした。
とはいえ今やこの句を鑑賞する者にとって、独り句の推敲をしつつ遅き日を過ごす人に、他ならぬ虚子本人の姿を重ねずにはいられないでしょう。そうして亡くなった後にも、俳句の世界に永遠に居続けてくれることを、多くの弟子や読者もまた願ったはずですから。
ゆったりと時間の流れる春の昼下がりには、永遠にみずからの仕事に励み続けている死者の存在が、なんとなく傍近くに感じられてます。墨をする音、原稿にインクを走らす音、書籍をパラパラとめくる音。そんなかすかな作業音をとおして、今も死者と生者は互いの存在を確かめ合っているのではないでしょうか。あなたもまた、動きのなかで瞑想的時間を作り出していくべし。
今週のいて座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
愛を育てる
今週のいて座は、単なる感覚的な享楽よりも、求めるに値するものに改めて気が付いていくような星回り。
古今和歌集に載っている「大空は恋しき人の形見かは物思ふごとに眺めらるらむ」(酒井人真)という恋歌について、荻原朔太郎は「恋は心の郷愁であり、思慕のやる瀬ない憧憬である。それ故に恋する心は、常に大空を見て思ひを寄せ、時間と空間の無窮の崖に、抒情の嘆息する故郷を慕ふ。恋の本質はそれ自ら抒情詩であり、プラトンの実在(イデア)を慕ふ哲学である。」などと評しています。
ここには、私たちが経験しうるすべての知の源泉としての「心の故郷」へ回帰する道としての哲学、そしてプラトンの対話篇とはそれへの愛を問いただした痕跡に他ならなかったのだという、詩人の洞察が示されています。
彼の中では「実在(イデア)」という哲学的概念と抒情詩=恋愛とがこれ以上ない魅力的な仕方で結びついていたのでしょう。あなたもまた、こうした「郷愁」や「憧憬」をいかに鮮やかにこころに甦らせるかこそがテーマとなっていくことでしょう。
今週のやぎ座の運勢
illustration by ニシイズミユカ
日常を掘り下げる
今週のやぎ座は、ふとした瞬間に行くべき場所や話すべき相手に引き寄せられていくような星回り。
「あたたかな橋の向うは咲く林」(宮本佳世乃)は、どこか夢の中の情景のような一句。「咲く林」とあるのは、フタリシズカでしょうか。大きな緑の葉の上に小さな白い穂状の花を2本出して咲くことからそう名付けられたこの花は、雑木林の一角などに群生し4月から初夏にかけて咲いていきます。
春の日差しとは対照的な山林の暗がりで、寄り添いあうように密集して咲くフタリシズカは、どことなく密やかな趣きがあり、まるで内緒話をしているよう。そこはあきらかに人間の世界ではないにも関わらず、橋をこえれば簡単に行ける場所でもあります。ただし、その橋が「あたたか」でなければ、林は咲いていないのであって、それ以外の時期に橋を渡っても歓迎はされないのではないでしょうか。
すなわち、句に詠まれた橋の向うの咲く林とは、この時期、このタイミングでしか行くことのできない場所であり、そこでしか交わせない会話がある。どうも掲句には、そんなことをつい連想させられるノスタルジーを秘めているように感じます。あなたもまた、不思議と思い出される場所や相手がいたなら迷わずそちらへ渡ってみるといいでしょう。