京都には、創業から100年以上堅実に家業の理念を守り、他の模範となってきた企業を「京の老舗」として顕彰する制度があります。京都旅の喜びを家族や友達に伝えるには、老舗のおみやげは欠かせません。第1弾は、享和3年(1803)京都市上京区に創業した和菓子の老舗「京菓匠 鶴屋吉信(きょうかしょう つるやよしのぶ)」をご紹介します。
一見の価値あり、立派な数寄屋建築の本店
「鶴屋吉信 本店」があるのは、細い道の多い京都の中では大路となる堀川通と今出川通の交差点の北西角。数寄屋建築を取り入れたひときわ立派な建物が目を引きます。
往来に面したウインドーには葉を赤く染めたモミジがお出迎え(取材当時)。実は、こちらは工芸菓子。京都市の伝統産業技術功労者「京の名匠」に選ばれた職人さんがつくる美しい京菓子に思わず足が止まります。葉っぱだけではなく枝まで、すべてがお菓子でできています。
玄関扉を開けると、広々とした贅沢な空間が広がります。
着色のために銅を含む赤い釉薬・辰砂釉(しんしゃゆう)を施した信楽焼の陶板が敷き詰められてた床、天井には節目の美しい竹が並べられ、他とは一線を画す、老舗の本店ならでは厳かな雰囲気。
京町家の雅を感じる店内にはデパートや駅でもおなじみの代表銘菓をはじめ、本店限定のお菓子もずらりと並びます。値段も手頃な千円前後からありますし、同じ買うなら「京都市都市景観賞」を受賞しているレトロな建物の雰囲気を味わうのもいいものです。
「丹頂鶴」 上村淳之画
1階の店舗の奥、暖簾の先にある店の間に飾られているのが、丹頂鶴の杉戸絵(すぎとえ)。京都に生まれ育ち、文化勲章も受賞されている日本画家・上村淳之(うえむらあつし)氏の筆。上村氏の花鳥画に特徴的な余白の美の前に並べられた贈答用のお菓子も上品です。
老舗「鶴屋吉信」が誇る、100年以上続く代表銘菓
左から「柚餅」個包装2個入り1188円、個包装540円、「京観世」個包装292円、ハーフサイズ 2包入1728円(いずれも日持ち20日程度)
さて、ここからは老舗を代表する銘菓のご紹介です。まずは創業から65年目の明治初年(1868)に創案された「柚餅(ゆうもち)」。親子3代京都に住む人なら一度はお茶請けでいただいているはず、と言い切りたくなるほど馴染みのあるお菓子。舌ですぅっと消える和三盆にくるまれた、ほどよい歯応えのある柚餅の味は一度食べたら忘れられません。
滋賀県甲賀市の羽二重餅・徳島県産の阿波和三盆糖・国産の青柚子・黄柚子とシンプルながら厳選された材料を使って作る代表銘菓の誕生秘話を教えていただきました。実は、鶴屋吉信では、柚餅が生まれるもっと前、材料は同じ柚子と羽二重餅の棹菓子がありました。それがある日、水の分量なのか蒸し時間なのかを間違えてしまったそう。やわらかすぎて商品としては出せないけれど、捨てるのはもったいない。和三盆をまぶして丸めて食べてみたところ、これが棹菓子とはまた違ったおいしさだったのです。そこから試作を重ねて商品化されるとたちまち人気商品に。昭和天皇の京都行幸の際にもお買い上げされ、いまでは鶴屋吉信を代表する銘菓になっています。
老舗の代表銘菓と聞くと敷居が高く感じてしまいますが、個包装であれば540円からあり手頃。爪楊枝でちょいとついて食べられる気軽さがよく、日持ちも3週間近くあるのでおみやげにも最適。箱入りで1188円〜と気を張らずにプレゼントできます。パッケージの柚子の絵は、明治・大正期の文人画家・富岡鉄斎氏によるもの。
次にご紹介するのが「京観世(きょうかんぜ)」。大正9年(1920)創案の100年続くロングセラー銘菓。「京観世」の名前は、観世井(かんぜい)の伝説に由来します。観世井とは、鶴屋吉信 本店のある場所から西に4分ほどの場所にある観世稲荷社の井戸。「天から龍が舞い降りてきて、以来、絶え間なく美しい波紋を描くようになった」との伝説が残されています。餡子を巻き上げたお菓子の切り口が、伝説に残る波紋のように見えることから「京観世」と名付けられました。
ほろほろとほどけるあんこは村雨、艶やかで上品なあんこは小倉。小豆と砂糖と米粉を材料にした蒸し菓子の村雨と丹波大納言小豆をしっとりと炊いた小倉羹を重ねて、職人さんが1本ずつ巻き簀で巻いて仕上げます。包み紙や箱に描かれる渦の絵は、堂本印象画伯によるもの。
老舗の新定番、つばらつばら
つばらつばら1個194円、10個箱入り2160円、つばらつばら 栗 1個248円 10個箱入り2700円 いずれも日持ち約8日間
新定番となりそうなお菓子が、昭和生まれの「つばらつばら」。秋になるとパッケージが紅葉柄に変わるほか、こし餡にきざみ栗の入った秋限定のつばらつばらも登場します。(定番で焼き皮に京都府産宇治抹茶を包み込んだ「つばらつばら 抹茶」、春限定の桜色の餡子に白小豆を散らした「花のつばらつばら」などもあり)
パッと見はどら焼きに似ていますが、似て非なるものであるということは、お菓子を手に持った瞬間にわかります。吸い付くようにしっとりとした皮は、もち粉を使った焼き菓子。他にはないもちもちっとした独特の食感がたまりません。ちなみに本店の隣にある直営カフェ「tubara cafe」(つばらカフェ)では、洋風にアレンジされて、まったく別物に生まれ変わった、ふわもち食感の「生つばら」なるメニューがいただけますよ。
京都の「tubara cafe」で新しい京スイーツを。江戸時代創業の鶴屋𠮷信が仕掛ける新しいお菓子