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大量生産がゆえに忘れられた焼き物、タイルが語る歴史

加藤さんの著書『にっぽんのかわいいタイル 昭和レトロ・モザイクタイル篇』にはたくさんのチャーミングなタイルの写真が掲載されています。日常生活に溶け込むレトロなタイルの数々は、渋い銭湯を巡っているブログを参考に探し出したといいます。凝ったタイルを使った銭湯がある街には、タイルを扱う工務店があり、街のあちこちでタイルが使われている可能性が高いのだそうです。

こうした建物の外観や内観のデザインは、その土地の美意識を反映していると加藤さんは語ります。

「銭湯でも商店でも、街の人に『素敵だな』と思ってもらえるものをつくるから、『タイルってモダンでいいな!』と感じる人が多い土地では、タイルが多用されるようになるんです」

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タイルづかいに設計者の美意識を垣間見る事ができると加藤さんは感じています。美しい色合いの施釉タイルを使ったストーブ裏の一角(江戸東京たてもの園にて撮影)
Mizuho Ohta

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さらに、建築の中のタイル使いには、設計者の美意識や肌感覚など生の情報が出てくると加藤さんは感じています。

例えば、早稲田大学の大隈講堂や、各地の県庁舎を設計した名建築家の佐藤功一。

「手がけた建物の外観からはバシッとした建物を造る人という印象だったのに、栃木県庁舎の中は、泰山タイルの総貼りになっていたりするんです。県庁舎内で展示されていた資料から彼は壺が大好きだったことがわかり、焼き物好きだったという彼の一面を見た気がしました」

泰山タイルとは、池田泰山が京都に構えた泰山製陶所でつくられたタイルで、趣向を凝らした多様なタイルは、名建築をはじめ一般住宅などにも幅広く使用されています。

著名な建築物に多く使われているとはいえ、基本的に大量生産されるタイルは、これまで建築史においてさほど注目されずにきました。

「外観は写真があるのに、タイルが使われていても内観の写真が資料に掲載されていないことも多いんです。でも、外壁にタイルを使っている建物に足を運んでみると、内装にもタイルが使われていたとわかったことが何度もあります」

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旧杉江製陶所の研究室には、専門書や資料も多く残っていました
Mizuho Ohta

全国のタイルを探す

タイルに関する歴史的資料が少ないなか、救出プロジェクトを通じて、旧杉江製陶所で100年間丁寧につけられてきた帳簿などの「丸十杉江家文書」が見つかりました。取引先についても詳細に記録されており、旧東大農業試験場だった東京農工大学府中キャンパスの建物や、植民地時代の樺太美術館などにもタイルを卸していたことがわかっています。

こうした資料は現在、「とこなめ陶の森」の資料館でデータ化しており、今後、旧杉江製陶所のタイルが使われている全国の建物が明らかになってくるといいます。これを元に、「次は『全国の旧杉江製陶所を探せ!』イベントを開催しようと思っているんです」と加藤さんは目を輝かせました。旧杉江製陶所の緊急救出プロジェクトは、これからもおもしろいことがまだまだ続きそうです。

近年では、見た目が均一になるように大量生産されたタイルが使われることがほとんどですが、少し古いタイルが貼られた建物をよく見てみると、タイルのひとつひとつにムラがあり、グラデーションや表情の美しいこと。シンプルながら巧妙なデザインのタイルにも、つい見入ってしまいます。

古いタイルには、それぞれ個性や物語があり、一度目に入り出すと、あちこちでタイルが気になりだします。今度散歩に行く時は、ちょっとタイルに注目してみませんか?

東京都小金井市の「江戸東京たてもの園」では、2023年8月20日まで「日本のタイル100年」展が開催中です。

「日本のタイル100年」展

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