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片手でもゲームできる。納豆を混ぜられる。「自分でできる」を増やすため、作業療法士がつくり続ける道具たち

ライフスタイル

片手が不自由な人が、日常生活で自分でできることを増やすために開発された道具「片手でできるプロダクト」。つくっているのは現役の作業療法士です。リハビリの専門家として日常の困りごとを直接サポートしてきた経験や医学的な知識があるからこそできる、つかい手のためのものづくり。つくり手としての思いを聞きました。

「片手でも両手でも使える爪切り」「片手で体を洗えるループタオル」「片手でチューブを絞れるキット」など、色とりどりの25種類の道具を集めたチラシの投稿が2023年夏、X(当時はTwitter)で2万リポストを超えました。

なんらかの理由で片手の不自由な方が、生活に必要な困りごとを独力でできるために考えられた道具達『片手でできるプロダクト』を多くの方に知ってもらうためのチラシがこちらです。もし、SNSに触れておられない、でも必要とされている方が皆様の周囲におられましたら、是非お届けくださいませ。 pic.twitter.com/qyXmhropFK

pic.twitter.com/qyXmhropFK

これらは、isotope(アイソトープ)の「片手でできるプロダクト」。福岡県の作業療法士、川口晋平さんが開発・製作し、同じく作業療法士で大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科教授の竹林崇さんが広報を担当しています。ECサイトやSNS、チラシを通して販売しており、この投稿をきっかけに注目を集めました。

片手でできるプロダクト
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「片手でできるプロダクト」25点を掲載したチラシの一部。「日頃インターネットに触れていない人にも、必要な人に届くように」
画像提供 / isotope

片手で押さえることができない人に

代表的な商品である「片手で開けられるペットボトルオープナー」は、脳卒中などで片麻痺(身体の左右どちらかに麻痺がある症状)となった人の声を受けて開発し、2021年に発売した最初の商品。

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「片手で開けられるペットボトルオープナー」
画像提供 / isotope

「ペットボトルオープナーとして売られている商品は世の中にたくさんありますが、日頃から生活の動作を分析して見ている作業療法士の川口さんだからこそ開発できた道具です」と竹林さんは話します。

ペットボトルを開けるとき、右利きの人は左手でボトルを握って固定し、右手でふたを回します。このときに右手に力を入れずに済むようにつくられているのが、一般的なペットボトルオープナーです。

しかし、ボトルを片手で固定することができない場合は、ボトルを太ももにはさんだり、ふたを歯でかんで回したりする必要があります。

そこで「片手で開けられるペットボトルオープナー」は、片手でボトルを固定しなくても簡単にふたを開けられるよう工夫されています。

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「片手で開けられるペットボトルオープナー」
画像提供 / isotope

ドーナツ型の道具の穴をペットボトルのふたにかぶせ、道具についている突起を押すと道具ごとふたが回る仕組みは一般的な商品と同じですが、穴の部分をじゃばら状のフィンで囲むことで、ペットボトルのふたの溝にフィンが引っかかって摩擦とたわみが生じ、強い力を加えなくても開けやすくなっています。壁やテーブルに押し当てやすいよう、大きな突起がついているのも特徴です。

ものづくりをする医療職

作業療法士は、病気やけが、障害などで食事、入浴、家事、仕事、趣味など日常の活動が難しい人たちを、リハビリテーションなどを通して支える国家資格の医療職です。

例えば、片手が動かなくなってそれまで当たり前にできていた着替えが難しくなった人に、袖を通しやすい着替えの順番を教えたり、伸縮性がある衣服を提案したり、腕のトレーニングをしたりと、その人に合わせた方法で手助けをします。

日常的な動作を自分でできるようにするために「自助具」と呼ばれる補助道具を使うこともあります。既製品もありますが、補助が必要な動作は人によって異なるため、担当している患者さんの状態に合わせて作業療法士が手づくりすることもあります。

「作業療法士は個別性や多様性に寄り添う仕事なので、それぞれの患者さんの目標を達成するためには、十人十色の道具をつくるしかないんです」(竹林さん)

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「片手でできるプロダクト」を開発・製作する福岡県の作業療法士、川口晋平さん(左)と、広報を担当する大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科教授の竹林崇さん(右)
提供写真

しかし、作業療法士が医療職でありながらものづくりを担ってきたことは、一般的にはあまり知られていません。さらに最近は、自助具をつくること自体が難しくなってきているといいます。

「先輩たちは木工やアクリル板などで自助具を手づくりしていましたが、最近は自助具をつくれる作業療法士が少なくなっている印象があります。ものづくりのための時間をとりづらく、技術継承もしづらくなっているからです」(川口さん)

病院や訪問でリハビリをする作業療法士は、勤務時間中は患者さんと接するため、自助具づくりに取りかかるのは必然的に勤務時間外になります。働き方改革に加え、手づくりの自助具でけがなどのトラブルが起きたときの責任の所在や材料費の負担なども、作業療法士が自助具をつくりづらくなった背景にあるとされています。

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