無料の会員登録をすると
お気に入りができます

会議室では「SDGsって大事」でも着る服がない。老舗アパレル4代目が開発した、スーツに合う新素材

ビジネスマンが自分ごとに

僕は11歳の頃からNPO活動をしていました。そこでは今でいうSDGs(持続可能な開発目標)をテーマに、サステナブルやヒューマンライツなどを学んできたので、もともと社会課題には関心がありました。

そんな背景があるため、社会に良いことをしたくてKAPOK KNOTを始めたように思われがちですが、少し違います。ビジネスチャンスがあることにしっかりと社会性がついてくるということに重点を置いています。

僕の家業はコテコテの老舗で、父は根っからの商人です。なので僕はどちらかというと、いわゆる丸の内のサラリーマンのようにビシッとスーツを着て、日経新聞を読んでいて、「手土産はやっぱり老舗の羊羹だよね」というような人たちの生活圏にいるんです。

取引先の銀行や企業の人たちと接していても、「これからの時代、サステナビリティに取り組まなければならない」と会議室では話しているけれど、実際に自分の購買行動には落としきれていないという人が多いです。

一方で、KAPOK KNOTの思想や活動を通して知り合ったアクティビストの方たちの間には、サステナビリティを購買の基準にするという生活圏が広がっています。

どちらの生活圏も知っている立場としては、どちらもリテラシーは高い層なので、身につけるものをサステナビリティの基準で選ぶかどうかは選択肢があるかないかによると感じています。

picture

2019年10月に始めたクラウドファンディングのリターンにしたのは、ビジネスシーンを意識したステンカラーコート
出典:Makuake ※プロジェクトは終了しています

Makuake

クラシックなデザインのコートしか着たことがないビジネスリーダーにとって、サステナビリティの機運がいくら盛り上がっていても、「自分たちが使える服がないよ」というのが本音です。そこにカポックという選択肢が加われば、白か黒かではっきり分かれがちな社会の構造にグラデーションをつくることができる。ビジネスシーンで使える軽いアウターから始めたのも、僕たちの役割はそこなんじゃないかと思ったからです。

picture

年代や性別、着用シーンを問わないデザインを豊富に揃えるため、親子で訪れる人も多い
写真提供:KAPOK JAPAN

picture

買わない選択は幸せか

サステナブルやエシカルは、排他的になりがちな側面も否定できません。「ものを買わないことがサステナブルだ」という意見もあります。突き詰めるとそうなのかもしれませんが、文化の継承や地方創生の文脈とは対極にあると感じます。

伝統的な文化が途絶え、都会でも地方でも同じ景色が広がり、どの旅行先でも同じような体験しか得られないことが果たして豊かなのかという議論がされないまま、ものづくりが否定される。すると、消費者がいいものを見極めるリテラシーも上がらない。僕はそういう世の中になるとすごくつまらないし、そんな世の中でいいんだっけ、と思うんです。

僕たちは、次の時代に向けた消費のサイクルを生み出したいと考えています。大量生産され大量廃棄されるものや一度きりしか使われないものをつくるのではなく、循環して次の生産と消費につながるものをつくりたい。

カポックの場合だと、木を植え、実がなり、ワタを採取してつくった服が買われたら、その売上でまた木を植えて、その実が自分のこどもの代にワタとして使われるというネクストサイクルです。そういうサイクルをどんどん生み出していくことを、ものづくり業界のベースにしていきたいというのが僕の思いです。

picture

カポックを植樹する深井さん。二階堂ふみさんとのコラボ商品は、売上の10%をアニマルライツの団体に寄付した
写真提供:KAPOK JAPAN

一周回って尖らせたい

サステナビリティはいろいろな考え方があるので、きれいなことだけを言い続けることもできれば、敵をつくることもあります。

僕は、老舗とスタートアップの間、ビジネスと社会貢献の間のグラデーションの立場を取るために、表現や行動にはすごく気を使ってきたつもりです。幸い、炎上したり叩かれたりしたことはほとんどありません。

ただ最近、一周回って、アンチがいないということはつまり、ブランドとして攻めきれていないのではないかと悩むようになりました。

picture

深井さんが着ているのは、アートライフブランド「HERALBONY(ヘラルボニー)」とコラボレーションしたアートコート
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

もちろん炎上商法をしたいわけではないんですが、議論を生み出せなければインパクトもありません。そんなブランドには持続性があるのかという課題感があります。

というのも、僕たちが目指しているのは、SDGsの達成期限とされている2030年までに世の中を変えることなんです。

人口の3.5%が動くと社会が変わるという「3.5%の法則」でいうと、日本の人口を1億人とした場合、350万着のカポック製品を世の中に届けることが、僕たちがまずできることです。特に衣服は住宅などと比べ、個人の行動として手がつけやすいアイテムのはずです。実際にそれくらいできればCO2の排出量も削減できます。

この4年間でOEMを含めて累計5万着を届けましたが、あと6年で350万着を達成するにはスピード感が全然追いついていないんです。それどころか、今の製造の規模感ではどうしてもサプライチェーンに負荷をかけてしまいます。

当たり触りのないことを言って自分たちはかっこいいことをやっているつもりでも、社会のどこかに負担をかけているビジネスを続けていて本当にいいのだろうか。本気で世界を変えたいなら、コンフォートゾーンを抜け出して、大きくスケールするような施策を打ち出していかなければならないんじゃないかと考えています。

オリジナルサイトで読む
記事に関するお問い合わせ