斬新な北斎に惹かれる
小学2年生の頃、タブレットのツールを使って自由に絵を描く授業がありました。友達が花や食べ物などを描くなか、龍一郎さんが描いたのは『冨嶽三十六景』のなかの1つ、『凱風快晴』でした。
小学2年生のときに描いた『凱風快晴』
写真提供:目黒史さん
龍一郎さん「日本美術は物心ついたときから、ずっと好きでした。並行して、小さい頃は恐竜、鳥、電車や車が好きだった時代がある。小学3年生ぐらいからお城にはまり、歴史が好きになりました。そうすると、ずっと好きだった日本美術と歴史の知識がくっついた。今は建築にも興味があります」
史さん「鳥が好きだった頃は、花鳥風月を多く描いている琳派や狩野派、伊藤若冲の展示も見に行ったね。浮世絵専門の太田記念美術館にも頻繁に行きました」
「若冲や(歌川)広重などは、展示があれば今も見に行っています。どの絵師も好きだけど、気づけば家のなかにある小物や本などは北斎のものが多く集まっていました。話にも、ことあるごとに出てきていた気がします。なぜ、なかでも北斎がすごいと思うのか、気づいたことがあるんだよね?」
龍一郎さん「北斎は森羅万象、何でも描いている。自分の興味は成長とともに移り変わっていくのですが、北斎は僕の興味の対象をことごとく描いていることに気づいたんです!」
「さらに、同じモチーフでも他の人よりちょっと違ったおもしろい描き方をしているんです。それが北斎の発想の豊かさと言いますか。例えば、同じモチーフでも他の人は普通の目線で地上から見たような絵を描いているのに対し、北斎だけはまるでドローンを使っているかのごとく上空から見たような構図で絵を描いている。普通では考えられないような斬新さがあって心を動かされるんです」
「好きな作品は全部!ですが、冨嶽三十六景のなかでは『山下白雨』です。富士山と雷が雲の上からの目線で描かれています」
「それに、北斎は浮世絵だけじゃないんです。図面や設計図みたいなものも描いていて、建築の専門家じゃないけれど建築の本も出している。何でもやっているのがすごいところだと思っています」
史さん「北斎が描いた図面などを見たとき、『わあ!』って本当に喜んでいたね」
5歳の頃。好きだった恐竜を描いている
写真提供:目黒史さん
調べ物は「紙」で
小さい頃からさまざまな物事に興味を持っていた龍一郎さんを、史さんはサポート。「動物園に行きたい」と言われれば連れて行き、どんなものに興味を示してもすぐに調べられるように、図鑑は一式揃えました。
史さん「昔から、よく本屋さんには連れて行っています。そのときに自分のアンテナが感じるコーナーに行って、何を読もうかと選んでいます。小さい頃は何に興味を持つかわからない。図鑑は全シリーズ揃えたものの、虫、星、宇宙などはまったく読んでいません。一方、恐竜や動物は、全ページについているじゃないかと思うぐらい付箋だらけ」
4歳くらい。乗りものや恐竜が好きで、描いては壁に貼っていた
写真提供:目黒史さん
龍一郎さんが幼稚園の頃のある日、自分の鼻筋と両目の間を指して、「おめめは2つあるのに、ここ見えないよね。どうして?」と聞いてきたことがありました。史さんは「じゃあ図書館で調べよう」と、身体についてこども向けに説明している本を手にとりました。
調べるうちに、右目と左目では見え方が違うこと、目で得た情報は脳に届いて脳で認識し、ひとつにまとまることがわかりました。龍一郎さんは「草食動物は肉食動物を見つけられるよう、たくさんの場所を見ることができるよう目と目が離れているんだ」ということがわかってきたそうです。
史さん「これまで興味を持って読んできた知識と疑問とが結びつく瞬間でした」
図鑑で調べたり、図書館で本を探したりする手間を惜しまなかったのは、「調べる」というプロセスを大事にしたからだといいます。
史さん「本人が自分の手で調べて体験できるように、なるべくスマホを使わない。辞書も紙の辞書を持たせて自分で調べるという習慣をつけました」
「インターネットと本で調べることの違いは、答えにたどり着くまでに時間がかかること。そのぶん、しっかりと記憶に定着しているように感じます。単語の意味もネットで調べるより昔の記憶もきちっと覚えている。辞書って大事だなと、この子を見て改めて思っています」
「今も本はその時々に好きなテーマから選びますが、参考書など勉強で使う本については、『こういうものが載っている本や参考書がほしい』と、ほしい本のイメージが明確になっているので、そういうものを探しに行くという感じです」
目黒龍一郎(めぐろ・りゅういちろう) / 一般社団法人日本美術アカデミー国際北斎学会 特別顧問
テレビ朝日「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」に「葛飾北斎博士ちゃん」として出演多数。2024年「博士ちゃん新春3時間SP」ではイギリス&オランダへ行き、欧州における北斎について調査。美術館などで講演やワークショップも多数行う。
Rika Naganohara