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移住人気が高まる長野県御代田町で「ゼロから山をつくる」という発想。町民みんなが育てる広場の10年後は

ライフスタイル

移住後の課題が出発点

みよたの広場は、御代田町役場の跡地に2022年5月にオープンしました。

2021年に御代田町に移住した本間さんが、自分のこどもたちが放課後に楽しく過ごせる居場所を探すという「ごく一般的な課題感」が、広場づくりの出発点でした。

町内には放課後児童クラブ(学童保育)はあるものの、時間の使い方や遊び方をこども自身が決められるような場所もあってほしい。学区の小学生だけでなく、地域のさまざまな人たちとコミュニケーションできる場所がほしい。そんなニーズをもつ保護者は本間さんだけではありませんでした。コロナ禍で他者と触れ合う機会が減っていた時期だったこともあり、開かれた居場所づくりを検討するうちに、広場という形を目指すことになりました。

本間さんは同じ思いをもつ保護者たちと御代田町にかけあい、町有地を使わせてもらえないかと相談。日本財団の「子ども第三の居場所」事業に申請し、助成が決まりました。

子ども第三の居場所

みんなで土をつくる

町から紹介された町有地のうち、立地のよい旧役場跡地を広場にすることを決めましたが、そこは人工的に造成されてカチコチに固まった「無機質」な土地でした。「ここでこどもが遊ぶのか......?」と残念に感じた本間さんたちは、「せっかくなら土づくりからはじめよう」と新たな目標を掲げます。

「もともとはここも森だったはず。もう一度、森のような豊かな土壌に戻すために町の人たちと協力し、どんどん緑が増えていく様子をみんなが見られるようにしたい。そうすることで、『みんなの広場』になっていくのでは」

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出典:note

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約500坪の土壌を改良するため、地域住民が参加するワークショップ形式で、広場を囲むように円形の溝を掘り、枝や落ち葉、炭などを詰め、さらに石垣で囲みました。排水処理をしつつ、微生物を棲みやすくする「通気浸透水脈」という工法です。詰め物には、地域の人たちが持て余していた廃材を再利用しました。

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Akiko Kobayashi / OTEMOTO

「水と空気の流れがよくなり、微生物が働くようになると土壌がほぐれてきます。以前はガチガチで鉄の棒も刺さらなかった土が、1年後には穴が空くほどやわらかくなってきました」

みよたの広場コミュニティマネジャーのジョージこと鈴木優介さんは振り返ります。

雨が降るたびにあちこちにできていた水溜りはやがてなくなり、雑草が生えてきました。ワークショップでは、こどもたちが地面に仕上げのウッドチップをまき、大人たちは廃材の丸太を1本ずつ地面に打ち込み、木道をつくりました。しかし、鉄の杭は打ちません。

「鉄の杭は空気と水の流れを妨げるので、広場には建物を建てないことにしました。今あるウッドデッキやトレーラーハウスはすべて可動式のもの。なので、いずれまっさらな土地に戻すことも無理なくできるんです」

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Akiko Kobayashi / OTEMOTO

日本財団からの助成金は約5170万円。「その半分は土に埋まっています」と鈴木さんは笑います。そうやって見えない地中にまでこだわった土に、コナラなどさまざまな種類の樹木を植える植樹ワークショップも実施しました。「10年後には森になるだろうね」と関わった人たちが楽しみに見守ります。

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Akiko Kobayashi / OTEMOTO

資源と労働が循環する

半屋外型のみよたの広場は、冬場はマイナス10度を下回る寒さになることも。ストーブの燃料には薪を使っています。当初は薪を買っていたところ、近所の造園業者から余った原木を譲ってもらえることになりました。しかし、原木があったとしてもそれを薪にするまでが重労働。人手が足りず、しばらくは広場の片隅にチェーンソーで切っただけの木材が積み上がっていました。

「あるとき、広場に来た人に斧を渡してみたら、喜んで薪割りをしてくれて。最近は薪割りをするためにわざわざ広場に立ち寄ってくれる人もいます。資源の循環だけでなく労働の循環まで起きたんです」(鈴木さん)

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みよたの広場コミュニティマネジャーのジョージこと鈴木優介さん
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

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