こんにちは、ヨムーノ編集部です。
国民的マンガ「ドラえもん」。
のび太が望む幸せが、しずかちゃんと結婚することであるのは有名ですよね。そんなのび太の一方的な片思い?から学ぶ素晴らしい考え方がありました。
ここでは、「ドラえもん学」を研究している横山泰行さん著書「「のび太」という生きかた」(出版社:アスコム)の中から一部を抜粋・編集して、のび太から学ぶ「利他の精神」をご紹介します。
※登場人物のひとり源静香の呼び方は、「しずかちゃん」が広く知られていますが、本書ではマンガでの表記「しずちゃん」を用いることにします。
自分より、まず他人の幸せを望む
人とは本来、自己中心的な生きものであるはずです。誰だって、まず自分の幸せを願うものだと、私は長い間、思い込んでいました。
しかし、のび太とのつき合いを通して、「人には2種類ある」と気づきました。
それは「自分の幸せを優先する人」と、「他人の幸せを優先する人」の2種類です。
で、のび太はというと、まさに後者、他人の幸せを優先して、行動できる人です。
その証拠に、のび太がしずちゃんへの恋心を押し殺そうとする、こんなセリフがあります。
「ぼくなんかのおよめさんになれば、しずちゃんは一生不幸に……」
次の作品は、何とも切ない、けれどもドタバタのラブストーリーです。一緒にあらすじを見ていきましょう。
「しずちゃんさようなら」
学校で、先生にこっぴどく叱られているのび太。
「そんなことじゃろくなおとなになれんぞ!!」と怒られてしまいます。
帰宅したのび太はまず、将来の嫁になる予定のしずちゃんとの関係を断ち切るため、彼女に借りていた本を急に返しに行きます。
また、彼女にきらわれるために、わざとスカートをめくります。
するとしずちゃんはようやく怒って、「きらい!!」と言います。
しずちゃんは、ジャイアンとスネ夫を見かけるも、ふたりの会話から、今日先生にひどく怒られたのび太が、これから自殺をするのではないかと疑います。
のび太の家に駆けつけようとするしずちゃんに気づいたのび太は、あわててドラえもんに「虫スカン」という薬を出してもらいます。
それは「みんなに確実にきらわれる薬」でした。
しかし、一粒だけでよいところを、大量に飲み込んだのび太は、体中から強烈な悪臭を放ち始めます。
ドラえもんもママも、家から逃げ去ってしまいました。
でも、しずちゃんは、気分が悪くなったのび太の「助けて!!」という叫び声を聞いて、倒れているのび太をトイレへ担ぎ込み、「虫スカン」を吐き出させ、救出に成功します。
「そんなに心配してくれたの?ぼくのこと」というのび太に、「あたりまえでしょ!!お友だちだもの!!」と強く言ってくれたのです。
その夜、のび太はドラえもんに言いました。
「しずちゃんにきらわれるのは、また今度にするよ」と。
『ドラえもん(32)(てんとう虫コミックス)』小学館より
のび太の心に流れる「利他」の心とは
この作品の面白いところは、のび太がしずちゃんとの関係について、将来のことまで先回りして想像して悩み、ひとりで苦しんでいるところです。
プロポーズはおろか、交際も告白すらもしていない。
しかも、まだ小学生という立場でありながら、相手のためを思って、身を引こうとしている……。
冷静に考えると、のび太の一連の行動は、滑稽ですらあるかもしれません。
しかし、のび太の心に流れる「利他」の心、つまり他人思いの精神は、大人顏まけの美徳です。
のび太のしずちゃんへの思慕(しぼ)の情が美しいのは、「報われなくてもよい」という覚悟に裏打ちされているからなのです。
またのび太は、客観的に「ダメな自分」を認識する力と、「背伸びをしない」という謙虚さを兼ね備えてもいます。
しかし、そのような美徳を保っている人は、現代では貴重な存在ではないでしょうか。
今こそ多くの人に、のび太の「利他の精神」を知ってほしいと思います。
利他の精神を発揮しても、誰にも気づかれないかもしれません。
ですが時間が経てば、「利他の心」は必ず相手に伝わり、心を動かすことにつながります。
そして、この作品のエンディングのように、たとえ紆余曲折を経ても、必ず幸せへといたることでしょう。