さまざまな食のプロに、お気に入りの調理器具を教えてもらう連載企画。今回は、フード・ケータリングユニット「MOMOE」を運営する料理家・稲垣晴代さんが愛用しているアイテムをご紹介します。お気に入りの理由や選ぶコツを教えてもらいました。
macaroni編集部
Today's Foodie
稲垣晴代さん/料理研究家、(株)INA代表
調理師学校卒業後、飲食店勤務、カフェ料理長を経て、フード・ケータリングユニット『MOMOE』を結成。化学調味料を使わず無農薬野菜を使った彩り鮮やかなお弁当が、人気を集めている。著書に『常備菜のっけ弁当』(宝島社)『サラダみたいに作る、楽しむピクルス&マリネ』(グラフィック社)などがある。
「手に馴染む」がポイント。
人気フードケータリング・ユニット「MOMOE」を運営するかたわら、レシピ本『MOMOEの作りおき』(宝島社)を出版するなど活躍の場を広げている料理研究家の稲垣晴代さん。「MOMOE」を立ち上げる前もカフェやレストランの厨房でバリバリ働いていたそうで、「料理をしない生活なんて考えられない」と言います。
料理ありきで日々を過ごしている稲垣さんにとって、調理器具とは身体の一部。自分の手と同じような感覚で扱っているそうで、新しいものを購入する時は「手にしっくりくるか」をよくチェックするんだとか。実際にふれてみて、さわり心地や持ちやすさ、重みなどを細かく吟味するそうですよ。
そうやって稲垣さんがひとつひとつ手に取って選び抜いた、愛着のある調理器具の数々。それぞれの魅力をたっぷり教えてもらいました。
1.【包丁】有次
使う日はないというくらいお世話になっている有次の包丁。以前はステンレス製を使っていたんですけど、鋼の包丁は切れ味の次元が違いますね。何でもスッと切れて、使っていて爽快だし、切れ味も落ちにくい。有次の柄は手にしっくりとくるので、固いものや大きな食材も安心して切れるんです。
お手入れを怠けてしまうと錆びてくるというデリケートさはありますが、これだけ優秀なら、そんなところもご愛嬌かなって。
2.【フライパン】業務用厨房機器メーカー
20代の頃からいろいろな飲食店で働いてきた私。このフライパンはパスタ屋のキッチンで毎日振っていたフライパンと同じ形なんです。これまでいろいろなフライパンを試してみましたが、長く使っていたものがやっぱり一番手になじむんですよね。
小学生の娘が「オムライスを作りたい」というので、ひとまわり小さいサイズも揃えました。ふたりでキッチンに並んで練習したのもいい思い出。今ではすっかり手馴れた様子でこのフライパンを振っています。
3.【鍋】ストウブ「ピコ・ココット ラウンド 18cm」
3人家族の我が家にぴったりなサイズのお鍋。毎日のお料理に欠かせない存在で、煮物やカレー、炊き込みごはんなどいろいろな料理を作っています。STAUB(ストウブ)の鍋は蓋が重くてしっかり圧力がかかるので、素材の芯まで熱が入り、味もよくしみこむんですよね。黒は汚れや傷が目立ちにくく、思いきり使えて気持ちいいです。
4.【炊飯道具】釜定 「 羽釜」
「釜定(かまさだ)」は明治時代から続く盛岡の鋳物屋さん。毎日のごはんはこの羽釜で炊いているんですけど、少しかためで食感のあるごはんが好きな我が家にとって、この南部鉄器は手放せない道具ですね。炊飯器や土鍋とはひと味ちがう、まさに好みどおりのごはんが炊けるんです。
蓋をして火にかけていると、めずらしいものでも見るような顔で娘が近寄ってきます(笑)。見た目でも楽しませてくれるアイテムです。
5.【キッチンばさみ】タジカ「キッチンシアーズ」
シンプルななかにもアンティークっぽい雰囲気が漂う「TAjiKA(タジカ)」のキッチンばさみ。ほどよい重さと心地よい切れ味が好みです。柄の部分が栓抜きの代わりになるなど、切る以外の機能もあって、使い勝手がいい。
実はこれ、「MOMOE」を立ち上げたときに友人がプレゼントしてくれた思い入れのあるアイテム。このはさみを手にするたび、一緒にもらった「人生を切り開く」というメッセージを思い出し、初心に戻れるんです。
手に合う道具はまるで体の一部のよう。
稲垣さんが自分の分身のように感じ、使い込んできた愛用品。性能が高くてルックスのよい調理器具は世の中にたくさんありますが、ご紹介した道具たちからはお店に並んでいるだけのものにはない魅力が感じられたのではないでしょうか。
道具の本質は使われることであり、使いこなさなければそれは宝の持ちぐされ。機能的なもの、おしゃれなものもいいですが、少し視点を変えて、「自分の手にしっくりくる」を基準に道具選びをすると、本当の意味で使えるアイテムがそろったキッチンに近づいていくはずです。そうしているうちに、稲垣さんのように「身体の一部」と思えるくらい手に馴染む道具と巡り会えるかもしれませんよ。