静嘉堂美術館では「酒器の美に酔う」と題した展覧会が行われています。展示されているのは、美しさや豪華さ、機能面の工夫、意匠の面白さが見て取れる作品ばかり。その中から目に止まった酒器をご紹介いたします。どのようにお酒を酌み交わしていたかを想像すると、古の酒器から暮らしやおもてなしの心も見えてきますよ。
暮らしぶりやおもてなしの心が見えてくる酒器
お祝いや別れの場面にしばしば登場するお酒。昔からさまざまな場面で盃が酌み交わされていました。たとえば、花見でお酒は恒例行事。写真は江戸時代、行楽の際に重箱・取り皿・酒器をワンセットにし、提げ手をつけたものです。
そんな私たちにとって身近なお酒ですが、時代をさかのぼると、東洋では神聖なものとして神に捧げられるものでした。また、それを入れる酒器も儀式の中で重要な役割を担っていました。やがて飲酒が普及すると、四季の風情やおもてなしの趣向に合わせて酒器も多彩に変化していきます。
「お酒を盛る」「注ぐ」「酌み交わす」という用途がある酒器。今回は、美術品として今に伝わるものの中から、当時の暮らしや、当時の人のおもてなしの心が見えてくる酒器をご紹介します。
(写真)「山水菊蒔絵提重」江戸時代(18~19世紀)静嘉堂文庫美術館蔵 前期展示
贅沢の極み!鍋島焼には稀な金彩が施された磁器
写真は、江戸時代に徳川将軍家へ献上していた磁器で、材料、技術の粋を誇る、佐賀藩の鍋島焼です。なかでもこちらは珍しい酒注の形で、金粉を蒔いて装飾する金蒔絵(きんまきえ)の唐草模様が取っ手などに大きくあしらわれている他、鍋島焼には稀な金彩も施されている贅沢品です。赤や青で描かれた牡丹の雄しべや雌しべ、唐草の縁取りなど細部にあしらわれた金彩まで見事で、つい見とれてしまいます。
この磁器は、倹約家として知られる8代将軍吉宗が注文し、献上されたのではないかといわれているのだそう。もし本当なら、お酒は特別なものと捉えていたのかもしれませんね。
(写真)「色絵牡丹文水注」 鍋島藩窯 江戸時代(17~18世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵 【全期間展示】
美しさに加え、機能的な工夫も兼ね備えている酒器
こちらの酒器は、ひょうたん型のユニークな形で、子孫繁栄を表しているそうです。
また、上部を取り外せる構造になっています。
取手を持って上部を持ち上げると、丸みを帯びた部分の下は筒状になっていて、ここにお酒が入る構造です。この酒器を使うときは、下部に熱湯を入れてから上部をセット。下部の熱湯が、筒の中に入ったお酒を保温してくれます。美しさに実用性も兼ね備えた酒器は、当時の人々の気配りも感じさせます。
(写真)「青花釉裏紅八仙文瓢形温酒器」景徳鎮窯 清時代・雍正年間(1723~35)静嘉堂文庫美術館蔵【全期間展示】
(写真)「青花釉裏紅八仙文瓢形温酒器」 上下分離
江戸時代にハートマークの意匠があった!?
写真手前の赤い磁器は、「祝樽(いわいだる)」と呼ばれる祝儀用の木製樽をモデルにした徳利。
実はこの徳利、一面にハートの模様がちりばめられています。胴の部分をよく見ると、小さなハートに似た模様が連続した地模様となっているのが分かります。これは猪目と言われる文様で、猪の目の形に似ていることからそう呼ばれるのだそう。私たちが想像するハートマークとは形も込められた意味も少し違いますが、今に通じるマークでなんだか嬉しくなりますね。
(写真)「色絵円窓文樽形徳利」 有田焼(古九谷様式) 江戸時代(17世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵 【全期間展示】
神への捧げものから、茶の湯文化、そして生活の中で息づき今に伝わる酒器。6月3日には、館長による「お酒の絵 上戸 館長口演す」と題したおしゃべりトークも開催されます。お酒の好きな人はもちろん、器の好きな人にもおすすめ。その時代にタイムスリップして、実際にお酒を飲んだことを想像しながら楽しんでみてはいかがでしょうか?
※写真の無断転載を禁じます
(メインビジュアル)「山水菊蒔絵提重」江戸時代(18~19世紀)静嘉堂文庫美術館蔵 前期展示 (展開図) 静嘉堂文庫美術館提供
美術館名:静嘉堂文庫美術館
住所:東京都世田谷区岡本2-23-1
問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
<河野元昭館長のおしゃべりトーク>
日時:2018年6月3日(日)
題目:「お酒の絵 上戸(じょうご)館長口演す」
講師:河野元昭(静嘉堂文庫美術館館長)