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LGBTQ+は “ LGBTQ+らしく” いなきゃ、なんてない。[前編]

ライフスタイル

建築デザイナー、コンサルタントとして働きながら、モデルとしても活躍するサリー楓さん。慶應義塾大学院在学中にカミングアウトし、性別移行を経験したトランスジェンダーの当事者だ。パンテーンのCM「#PrideHair」起用やドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる(英題:You decide.)』主演を務めるなど、LGBTQ+にまつわる発信も精力的に行っている。そんな 楓さんが「トランスジェンダー女性」として生きる決心をするまでのストーリーを伺った。

「男性」として入学し、「女性」として迎えた就活

心のモヤモヤが解消されたところで、まだ周囲に打ち明ける勇気はなかった。

大学には、「男性」として入学。幼い頃からの建築家への憧れはさらに強まり、大学院にも進んだ。

「これから迎える就職活動について考えた時、私のアイデンティティを理解した上で採用してもらった企業で働きたいと思いました。それならば、学校にいるうちにカミングアウトしようと思ったんです。

それでも、相当な勇気が要りましたね。もしかしたら学校を辞めることになるかも、と退学の二文字が頭をよぎったくらい」

トランスジェンダーに向けたメイクレッスンを受け、初めて化粧のやり方を教わった。楓さんは、いろいろな思いが交差したものの、ある日意を決してメイクをしたままの姿で学校に行った。しかし、まわりの反応は想定していたものとは違ったという。

「私がいた学校には、LGBTQ+とカミングアウトしている人が何人かいて。そういった環境だったこともあり、比較的打ち明けやすい雰囲気はあったと思います。もちろん、私の姿に誰も驚いていなかったわけではありません。それでも、しばらくするとすんなり受け入れてくれたんです。一つひとつ真摯にコミュニケーションを重ねていく中で、私への対応についても疑問や不安が解消されていったようです」

さらに2年間ジェンダークリニックへ通院してホルモン療法を行い、戸籍上の名前と性別を変えた。「トランスジェンダー女性」として学校に通い始めた楓さんにいよいよ就職活動が始まる。LGBTQ+当事者であることによって、就職や転職活動などの場面で差別や不利益を被ったという悩みはいまだ聞かれるが、楓さんはどのように乗り越えたのだろうか。

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「伝え方やタイミングにはとても気を遣いました。トランスジェンダーであることが、プラスに働くことはないだろうと思ったからです。

まず、膨大な数の候補者からふるいにかけられる書類選考では、特に不利に働くと考えました。履歴書の性別欄には『男性』に丸をつけて、トランスジェンダーであることは明かさないようにしていました。そして、最終面接であれば自分の熱量や思いを伝えられそうだと思い、そこで初めてアイデンティティについて伝えることにしたんです。

『LGBTQ+は人口の10%くらいではないかと言われています。つまり、従業員や顧客の中にも一定数いるはず。ジェンダーに向き合った経験がある私の視点は、グローバル展開を目指している御社にとってもプラスに働くのではないでしょうか』

私がこう話すと、採用担当の方もハッとしたような表情をして、『これまでそうした視点を持っていなかったことが恥ずかしい。もし採用となったら、具体的に何をすればいいか相談させてください』と言ってくれました」

“普通”に生きるトランスジェンダーのロールモデルに

就職活動を経て、念願の建築設計事務所に合格。幼い頃からの夢が叶った瞬間だった。カミングアウト後の学校生活も就職活動もいたって順調に見えるが、「私はレアケースだった」と振り返る。

「カミングアウトしたことによって、学校や会社を辞めざるをえなかったり、就職活動中に心ないことを言われたり……。そんな当事者の話をたくさん耳にしました。

だから、私は恵まれていたんだなって気付いたんです。たまたま、性のあり方に関して寛容な環境に身を置いていた。たまたま学んでいた建築が就職に役立った。

でもそうであるからには、私が『日常を生きるトランスジェンダー』のロールモデルになりたい。そう思い、ありのままの自分の姿や思いを発信していこうと思ったんです」

そんな中、楓さんに「ミスインターナショナルクイーン」出場のチャンスが舞い込む。タイで開催される、世界最大規模のトランスジェンダーによるビューティーコンテストだ。2009年にはタレントのはるな愛さんが出場し、グランプリに輝いた。

ミスインターナショナルクイーン

「17年の歴史がある有名な大会で、多くのトランスジェンダー当事者が勇気をもらっていたと思います。私もその一人でした。

一方で、それまでの出場者たちは芸能などの華やかな世界からやってきた方ばかり。あまりにも『日常』が見えなくて、どうしても自分ごととして考えられなかったんです。

メディアでも大々的に報道されていたので、当事者以外からの注目度も高かった。すると、世間では『コンテスト出場者=一般的なトランスジェンダー』としてイメージが焼きついてしまいますよね。だから、私たちのような一般人がトランスジェンダーであるとカミングアウトすると、『学校は辞めるってこと?』『芸能界に入るの?』と聞かれるんです。

でも実際の当事者は、学校に通い、会社で働く人の方が圧倒的に多い。それなら、現役の大学生として“普通”に学校に通い、これから社会に出て“普通”に働く、そんな“普通の人”こそ、ラインアップに加わるべきなんじゃないか。今私が、このコンテストに出る意義は大きいと考えました」

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1993年、京都府生まれ、福岡県育ち。建築デザイナー、モデル。ブランディング事業を行う傍ら、トランスジェンダーの当事者としてGSM(Gender and Sexual Minority)に関する発信を行う。建築学科卒業後国内外の建築事務所を経験し、現在は日建設計にて建築と都市のコンサルティングを行う。

Twitter @sari_kaede

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