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「デザインの寿命を長くしたい」。掲示が終わった広告が、世界でひとつだけのバッグに

役目を終えたフラッグとの出会い

そこでは美大とは異なるアプローチでデザイン思考を学ぶことができました。3Dプリンターやレーザーカッターなど最新の道具もあり、研究室の仲間たちと何か新しいことをやってみたいと盛り上がり、六本木のまちづくりプロジェクトに関わることになりました。

六本木では、六本木商店街振興組合による「六本木デザイナーズフラッグ・コンテスト」が2009年から開催されていて、僕は第1回目に応募して優秀賞をいただいていたんです。その縁で、まちづくりに関する打ち合わせに行ったときに、コンテストで飾り終わったフラッグが事務所に置かれているのをたまたま見つけました。

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石川さんが「六本木デザイナーズフラッグ・コンテスト」に出品したフラッグ。RoppongiのRを回転させたピースマークをデザインした
蝉 semi 提供

このフラッグを僕たちが持って帰って、研究室にあるレーザーカッターやミシンでバッグをつくってみたらどうだろう、と。鞄が好きだったので、まずはサンプルをつくってみたいので素材を譲ってほしいとお願いしたんです。

実際に仕上がったサンプルは、いま思うと出来が良いとは言えませんが、色やデザインはユニークなものができました。

街路灯に飾られていた広告がバッグに生まれ変わって再び街に戻っていったらおもしろいし、応募した人は自分のデザインを名刺代わりに持ち歩くことができます。自分が応募したことがあるコンテストなだけに、デザインにかけた思いやこだわりが展示終了とともに廃棄されるのではなく、形を変えて残っていくことに意義があると感じました。

そこで組合の協力を得て、デザイナーと直接やりとりして制作させてもらうことになりました。当初は、デザイナーがフラッグの好きなエリアを選べるようにもしていましたが、今はある程度お任せしてもらっています。

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「蝉 semi」の工房に保管されているフラッグや広告
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

ーー「デザインの寿命を長くしたい」というのはどういうことなのでしょうか。

僕は、自分がデザインしたいというよりも、誰かがデザインしたものを生かすことにやりがいを感じています。

もちろんデザインの二次利用の許可を得たものに限りますが、デザインされたものを異なる目的のプロダクトにさらにデザインすることによって、意外な発見があったり、価値が上がったりする可能性があるんですね。

良いものを安く提供することや安いものを多く提供することは企業努力だと思いますが、僕は良いものの価値をより高めていくことをしたいんです。

ひとつの商品をつくるためには人手も時間も手間もかかっているので、安く売ってしまうとどこかの工程で誰かが我慢することになる可能性があります。その商品をつくることに関わったすべての人が幸せになるには、価値を高めたり、長く価値を提供し続けたりすることが必要ではないかと思います。

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Akiko Kobayashi / OTEMOTO

物質よりデザインは軽視されがち

例えば、フォトグラファーと一緒に取り組んでいるプロジェクトがあります。写真展で写真を大きめのターポリンに出力してもらい、写真をトリミングするのと同じ感覚で生地をフォトグラファーにトリミングしてもらって、バッグなどのプロダクトを制作しています。

写真の展示とともにバッグを販売することで、写真展だけで得られるより多くの収益をフォトグラファーに還元できますし、訪れた人は気に入った写真をバッグとして身につけることができます。

写真もデザインも、たとえ展示されるのが1週間であろうと1日であろうと、制作で手を抜くわけにはいきません。それなのにクリエイティビティは物質的なものと比べて軽視されがちで、価格設定もしづらいことが課題だと感じています。

クリエイティビティを継続的に発揮できる環境があれば、価値あるデザインが生まれ、必然的にプロダクトもよくなるので価格が上がるという循環が生まれます。つくり手が誰も我慢しない社会にしていきたいです。

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石川大輔(いしかわ・だいすけ) / 「蝉 semi」創業者
2011年、蝉 semiを始める。 近年は東京以外の地域でも企業や団体・個人と協業し、業種や職種を超えたプロジェクトや業務にも積極的に取り組む。 自分の理想を実現させるプラットフォームとしての「蝉 semi」と、他者や他社との関係性や対話を重視し、コミュニケーションを介して課題を解決していくプロジェクトの二兎を追っている。 最近ほしいもののひとつは山にこもるための「小屋 (shed)」
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

想いをつないでいく

ーーもとのデザインがもつ価値や背景をアップサイクルしたその先についてはどうでしょう。

デザイン誌「AXIS」を発行する株式会社アクシスが2021年に40周年を迎えた際、歴代のビルフラッグを再利用したトートバッグを制作しました。

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