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「おいしくないと、見えてしまう」 映画の裏側をつくり上げる飯島奈美さんの料理制作

料理の見えない役割

ーーフードスタイリストという仕事は今でこそ認知されましたが、美術さんが小道具の一環として担当することも多いと聞きます。おいしそうに見せることは必要でも、味まで要求されるものなのでしょうか。

おいしそうに見せるためにあえて味付けをしないケースもあると聞いたことがありますが、料理に味付けをしないという発想が、私にはなくて。わざわざつくるのに、もったいないと感じてしまいます。

おいしそうに見える料理を食べたくなるのは当然なので、撮影で余ったものは衛生的に保管して、撮影後に温め直して役者さんやスタッフの皆さんが食べられるように準備します。せっかくつくったので食べられるものは食べてもらいたいですし、フードロスも避けられます。

それに、味って見えてしまう気がするんです。

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アシスタントと連携して料理を制作していく
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

映画の料理には、画面を通して伝えることと、役者さんの気持ちを盛り上げることの両方の役割があると思っています。

映画は、監督による演出があり俳優による演技があり、その周りに小道具などによる雰囲気づくりがあります。料理や食器には、登場人物が普段どんな生活をしているのか、過去にどういう経験をしてきたのかが表れるものなので、役づくりの一部を担っているつもりで準備しています。

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例えば、映画「すばらしき世界」で、長い服役を終えて出所した主人公が最初に食べるすき焼きは、老夫婦がもてなす夕食という設定なので、あまり霜降りが多くない庶民的なお肉を選び、ごく普通のすき焼きをイメージしてつくりました。

また、ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」の最終話で主人公がある女性の自宅を訪れるシーンは、幼い頃からバレエをしていたひとり暮らしの女性という設定でした。住んでいるのは殺風景な団地ですが、キッチンのまな板やスパイスの容器をおしゃれなものにして、丁寧な暮らしを楽しんでいる雰囲気を演出しました。ほとんど見えていませんが、ハーブをふんだんに使った「タブレ」というクスクスのサラダをつくっています。

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細かいところまで画面に映るわけではありませんが、料理の味も含め、すべてがつながって一つの作品になるのだと思います。

映画に関わるすべての人が一体となって丁寧にひとつの作品をつくり上げることの大切さは、「かもめ食堂」の撮影で学びました。

ーー2006年に公開された映画「かもめ食堂」はフィンランドで撮影されたんですよね。

日本の家庭料理を提供するヘルシンキの小さな食堂が舞台だったので、現地で調達できる食材を使った定食のメニューを考えて、値段もつけ、フィンランドらしい食器を選びました。

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映画でおにぎりを載せていたフィンランドの陶磁器ブランド・アラビアの食器は「かもめ食堂のお皿」として知られるようになった(写真はイメージ)
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

カメラマンや照明さんなどスタッフの多くがフィンランドの方でした。料理のシーンが多いものの、ほとんどが日本食を食べたことがない人たち。そこでプロデューサーが、「まず日本のソウルフードを食べてもらおう」と提案してくれて、おにぎりを100個ほど握ってスタッフに振る舞うことになったんです。

日本から持ってきた貴重なお米ですし、鍋で大量に炊くので大変な作業です。それでもスタッフに味わってもらうことがいい作品づくりにつながると、料理を尊重してもらえたんです。

丁寧に仕事をするって、なんて素敵なことなんだろうと感じました。こういう丁寧な現場で仕事がしたいし、こういう丁寧な現場をつくりたい。自分が仕事をするうえでの方向性を決めるきっかけになった出来事でした。

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『LIFE 12か月』のにんじんラペ
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

日常に自然にあるもの

ーー料理を題材にした漫画や小説が原作となる映画は多く、最近は「ASMR」によってシズル感を演出するなど、料理が主役級になる作品もあります。

フードスタイリストのキャリアが長くなってきたので、そうした作品を任せていただくことも増えてきました。料理が主役の映画もいいですが、主役じゃなくてもいいんです。

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