給食を食べられなくなった
樋口さんはもともと、神奈川県の公立小学校で教員をしていました。他の多くの自治体と同様、給食は学校給食センターで大量に調理されたものが各校に配送される仕組み。短い給食の時間中に残さず完食することがよいとされ、樋口さんも子どもたちに指導をしながら慌ただしく食べていました。
「趣味で料理教室に通ううちに、食材の背景に関心をもつようになりました。すると給食が栄養素を摂取する単なる手段のように思えてきて、一時期、給食を食べられなくなってしまったんです」
子どもたちが給食をおいしく、楽しく食べられるように。樋口さんは食材を選定する自治体の会議に参加して献立の改善を提案したりもしましたが、既存の大きなシステムを変えることは難しく、無力感を覚えました。
教員をやめて地元に戻り、次は食の課題に取り組むことができないかと考えていたときにフードハブ・プロジェクトを知り、立ち上げメンバーとして入社しました。
「まさかこんな形で改めて給食に関わることになるとは当時は思ってもいませんでしたが、食農教育としてやりがいがあります。生産、調達、流通、料理など食の課題の全体像を見ることができるので、給食って奥が深いです」
テーブルと椅子は、神山産の木材でつくられている
Akiko Kobayashi / OTEMOTO
「おいしくなかった」を生かす
神山まるごと高専の給食は、つくり手(料理スタッフ)と食べる人(学生)のコミュニケーションが双方向であることが特徴です。
「神山まるごと高専の給食は、食堂内で料理スタッフがつくっています。つくり手と食べる人との距離が近い。いつでも対面でフィードバックを得ることができます」(樋口さん)
それは、食べる人の体調や空腹度、冷蔵庫にある食材によって献立や量を決める家庭料理と似ています。
写真提供:神山まるごと高専
樋口さんや料理長の細井恵子さんのもとには毎日、「いい反応も悪い反応も聞こえてきます」。
地元の食材としてわらびのピクルスを出したときに「今日はおいしくなかった」と率直に言ってきた学生がいました。ところがその学生は、翌日のわらびごはんを完食。食材が問題なのではなく料理の仕方を工夫すればよいことがわかり、改善につながりました。
「キンカンって初めて食べたんですけど、こうやってサラダに入れるんですね」
「今日はピカタ? 私がリクエストしたメニューだ!」
学生たちの感想や疑問がそのまま料理スタッフに伝わり、翌日からの給食づくりに反映されていきます。そのためなのか、下げられた食器はとてもきれいで、食べ残しがほとんどありません。
環境省の調査によると、学校給食の食品廃棄物のうち、「食べ残し」の量は、児童・生徒1人あたり年間7.1kg。給食の提供日数を年間200日とすると、1日あたり35.5gとなる計算です。一方、神山まるごと高専の学生1人あたりの「食べ残し」の量は、1日あたり4.1gでした。
晴れた日はテラスや庭で給食を食べる学生も
Akiko Kobayashi / OTEMOTO
地産地食率7割の献立も
神山まるごと高専の給食で目指しているのが「地産地食率・日本一」です。
もともとフードハブは町内の食堂「かま屋」で、神山の食材を調理した定食を提供してきました。「地域で育て、地域で食べている割合(食材品目数)」を「産食率」としてサイトで公表しています。
本日の神山まるごと高専のお昼ご飯です🙌#徳島県の郷土料理いりめし(いりこめし)が出てきました🍚
地域によっては100年以上伝承されている郷土料理です!
徳島県産さつきますの照り焼き🐟
いりめし
お味噌汁
or
夏野菜のキーマカレー🍛🍅🫑
お味噌汁#神山まるごと高専…pic.twitter.com/jSgm6eyDUz