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まずは自分の気持ちの確認から。後悔しない離婚のために知っておきたいこと[弁護士インタビュー]

結婚するときには、多くの方はパートナーと生涯を共に生きるつもりでいると思います。しかし、時間とともに「こんなはずじゃなかった」と思うことや、関係性が変わってしまうこともあるでしょう。そんなときに「離婚」という選択が出てくるかもしれません。とはいえ、離婚を考えたとき、何から始めればいいかわからない人も少なくないと思います。『増補改訂版 前向き離婚の教科書』(日本文芸社)は、離婚を考え始めたときの心の整理から離婚の手続きまでをサポートしてくれるような本です。本書を始め、離婚に関する多くの書籍に関わっている森法律事務所の所属弁護士の舟橋史恵さんにお話を伺いました。

離婚したい理由を明確にしておく重要性

——本書では離婚を考え始めたときに、自分の気持ちを丁寧に確認することを勧めています。なぜ気持ちの確認が大切なのでしょうか?

今ご家庭で抱えている問題があって、その解決方法として離婚を考えることがあると思います。しかし、果たして離婚という選択で、その問題が解決されるのかは今一度考えた方がいいと思います。

なぜ離婚をするかというと、幸せになるためですよね。ですが、離婚すれば必ず幸せになれるというわけではないですし、離婚したら絶対に不幸になるわけでもありません。人それぞれ価値観が違うので、弁護士は離婚を勧めることも止めることもできません。弁護士はご本人の気持ちをお聞きしたり、選択肢を示したりすることはできますが、最終的に決めるのはご本人です。

離婚したい理由を最初にきちんと確認しておかないと、途中で気持ちがぶれてしまう方は実際にいらっしゃいます。気持ちに変化があること自体は仕方のないことだとは思うのですが、「離婚しなくてもいいかも」と思っているのに、弁護士に依頼したところで引っ込みがつかなくなってしまうことも。なので、依頼する前にはご自分の気持ちを整理することを勧めています。

最近は、離婚に関する情報もネットで検索できてとても便利だと思います。一方、デメリットは自分が「これだ」と思った結論に合うように調べてしまう傾向があること。離婚したい気持ちが強ければ「離婚 メリット」と検索して、良い話が目に入るでしょう。離婚がうまくいった事例を見ても、自分が同じように当てはまるかはわかりませんので、情報が偏ってしまうこともあると思います。また、本当に見る必要があるのは、離婚で失敗した事例など、負の側面かもしれません。まずは良い面、悪い面などいろいろな角度から検討して、自分の気持ちを整理することが重要だと考えます。

——本書の離婚後のライフプランの確認シートで「心の支えとなること」という欄があります。なぜ明確にしておく必要があるのでしょうか?

そもそも夫婦の気持ちが通じ合っていたら、離婚という話にならないですよね。なので離婚となると、通常は相手が反発したり、相手が離婚を受け入れるにしても条件面で希望が異なったり、思い通りにいかないことも出てきます。

親族や友人知人を巻き込んでの紛争になることも少なくないので、冷静に離婚の話を進めていくためには、気持ちの支えになるものがあった方がいいのではないでしょうか。また、離婚できたものの、「こんなはずじゃなかった」という事態を避けるためには、相談先や頼れる人が複数いるかもよく考えることをおすすめします。

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『増補改訂版 前向き離婚の教科書』(日本文芸社)より

——離婚を考え始めてからのフローチャートでは、「やっぱりやり直したい」と思ったときに関係修復に努めることを勧めています。本作の事例の漫画のようにモラハラがある場合、されている側が努力して関係修復することはあまり想像できないのですが、実際に離婚を検討する方を見ていてどう感じますか?

「モラハラされた」と主張するケースには2種類あると感じています。一つは相手が自分本位、DV気質で、従わせるために身体的暴力や言葉で攻撃するようなケースです。こういった場合は、モラハラされる側の一方的な我慢になるため、共同生活は成り立たないですし、修復は難しいと思います。

モラハラやDVの加害者は離婚を告げられると、「悪かった。直すから言ってよ」などと、一旦謝罪することがあります。ただ、実際に意見を言うと、激怒する、自己弁護を繰り返すなど直す気がないことも珍しくありません。「自分が変わるのではなく、相手がこれまで通り我慢すればいい」という考えの方とは修復するのは難しいでしょう。

もう一つは、パートナーが人の気持ちを推察するのが苦手なタイプのケースです。「察してほしい人」と「察しが悪い人」の組み合わせですと、片方は不満があるのに、もう片方は気づいていないということがあります。

特に女性は「自分の要望をはっきり伝えるのは恥ずかしい」「奥ゆかしくあるべき」という価値観を持っている人もいらっしゃるので、本当は不満があるのに言えずにすれ違いになっていることも。そして、相手に気持ちを伝えた結果「あなたを傷つけていたことに全然気づいていなかった」という反応が返ってくることもあります。

そういう場合は、伝えたことで話し合いができ、不満が解消することもあります。せっかく縁があって結婚に至ったのですから、ミスコミュニケーションで離婚になってしまうのはもったいないと思います。ただ、自分の気持ちを伝えても、相手がすり合わせをする気がなければ、やはり関係の修復は難しいかもしれません。

——フローチャートでは、別居後に離婚と、関係修復の2パターンが示されています。

実際に別居婚が適している夫婦もいらっしゃいます。離婚を見据えて別居を始めたものの、距離感がちょうどよくなり、離婚への勢いが落ち着き、「当面は別居」という合意で着地することもありました。単に同居生活ができなかっただけで、二人とも子どものために一生懸命である点は共通している。ときどき両親揃って子どもと会うことが、互いに心地良いということもあります。

離婚するつもりがなくても、離婚の知識は持っておくといい

——共働きの夫婦は増えているものの、女性が家事育児を主体的に担い、稼ぎが夫より少ない夫婦は多いです。本書を拝読していても、離婚時の経済的な問題は大きいことを感じました。経済的なことは準備が必要ですが、「離婚の可能性」はいつから想定しておくといいのでしょうか?

人生で一番幸せなのではないかというタイミングに水を差すようなことですが、最初から最低限の知識を持っていると自分を守れるのは事実です。何もかも疑いながら共同生活するのは疲れてしまうと思いますが、離婚について知っているうえで、信じて相手にゆだねるのと、知らないうちに不利な状況に陥ってしまうのとでは、状況が異なります。

よく誤解があるのは財産分与について。財産分与の対象とならない「特有財産」は、結婚前からの財産や相続した財産といったものがありますが、混ざってわからなくなると、共有財産と推定されてしまいます。「特有財産だけれども、家族のために使おう」と思って管理するのと、よくわからないうちに混ざってしまったのでは話が変わりますから、自分のために残しておきたいのでしたら、分けて管理する必要があります。

「相手を信じている」と、全て混ぜて管理してしまうと、いざ別居したくなったときに手元に資金がない状態に。それに最低限の資金が手元にある、いつでも出ていける状態の方が、日頃の主張もしやすいと思います。出ていくためのお金がないと思うと「我慢しなきゃ」と考えやすく、我慢が積もり、ある日爆発……という悪循環にもなることも。

「不満を言いやすくなる」ことは、言い換えれば問題が小さいうちに改善しやすくなるということ。離婚を想定することで、結婚生活がうまくいく側面もあると思います。「せっかく結婚したのに、離婚を想定するなんて」とは言わずに、99%は幸せを噛みしめ、1%はもしものときを考えておく、くらいの気持ちでいるといいのではないでしょうか。

——本書の漫画の例も、結婚して12年で関係性にほころびが生じています。家族の関係性も変わるものですよね。

別れると思って結婚する夫婦はほとんどいませんよね。お互いに年をとって、今まで許せていたことが許せなくなったり、仕事や社会的地位の変化、子どもの成長など、色々な変化があって、家庭は変わっていくもの。「最初に思っていたのと違う」ということは、どの家庭でも起き得ることです。

※後編に続きます

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『増補改訂版 前向き離婚の教科書』(日本文芸社)

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