性格がいい人を採用する
結果を評価するより未来に投資するほうがはるかに判断が難しいのですが、あえてそうしているのは、僕自身が何の仕事をするかより、誰と仕事をするかを大切にしているからです。
会社をプロジェクトとして見るのであれば、能力や実績で判断して人を集めるのでしょうが、僕は会社はコミュニティだと考えているんです。いい人と仕事ができたら何をやっていても楽しいし、問題が起きたとしても何とか乗り越えられるんじゃないかなと思っています。
写真提供:木村石鹸工業株式会社
それは採用にも表れていて、「この人は何ができる人か」ではなく「この人はいい人か」という基準で採用面接をしています。つまり能力よりも、「性格や機嫌がいい人」に入ってもらいたいんです。
実は、専門職を募集していたときでさえ、その分野の経験がまったくない人と面接をして「この人は性格がいい」と即決したことがあるくらいです。彼女は予想どおりマルチに活躍してくれていて人望も厚いのですが、専門職の人はいまだに採用できていないという(笑)。
写真提供:木村石鹸工業株式会社
曖昧な状態を耐える
木村石鹸には、このようにあまりよくわからない領域やはっきりしない部分が多いんです。
会社は人で成り立っていて、人の気持ちや体温があります。合理的に判断したことで人が喜んだり、合理的な決断をしたことで人がついてきてくれたりすることばかりではありません。「儲からないことをやめたら儲かる」というような単純なものでもありません。
従業員が仕事に喜びや楽しみ、やりがいを感じているならば、儲からないからといってその仕事をなくしたら従業員のやる気が損なわれ、パフォーマンスが落ち、結果的に儲からなくなることだってあるでしょう。人間はそんなにロジカルではないし、僕自身も合理的じゃないですから。
100周年の節目に出版した木村さんの著書『くらし 気持ち ピカピカ ちいさな会社のおおらかな経営』(主婦の友社)
清永洋
若手社員はときに不安になるようで、よく「答えを教えてほしい」と言われます。そのたびに「答えを出してもいいけど、出さないほうがいいと思う。だから自分で考えて」とごまかしています。答えを用意すると、常に答えを求めるようになる。答え通りのことをずっとやらされたらいつか嫌になるかもしれない。
答えを考え続けたり、そもそもの問いの立て方を変えたりするほうが、仕事のおもしろさを感じられると思うんですよ。なので木村石鹸では、答えがよくわからない曖昧な状態を「耐えている」というわけです。
写真提供:木村石鹸工業株式会社
創業100年を迎え、固形石鹸の「木村石鹸の木村石鹸」を完成させることができました。「木村石鹸らしい商品ができた」と従業員も満足しています。
ただ、その「木村石鹸らしさ」というのも実は曖昧なんです。これも「定義してほしい」と言われますが、定義してしまうと「木村石鹸らしさ」ではなくなるような気がするんですよね。「木村石鹸らしさってこういうものかな?」と各自が思っていることを議論し合うことが木村石鹸らしいんじゃない?と思っていて。
次の100年に向けた、会社の規模や売上の目標も実はあまりないんです。それよりも、社員が大切な人に「うちの会社はいい会社だよ」と自慢できる会社であり続けたい。