『なかなか寝付けない』『眠りが浅い』等、睡眠に関する悩みを抱えていませんか? 日本では、一般成人の5人に1人が睡眠に関する悩みを抱えているといわれています。多くの人が抱える睡眠に関する悩み。ヨガの実践が、その睡眠の質を上げることは広く認知されている事実です。ここでは『眠りのヨガ』といわれるヨガニードラを通じて、ヨガ的観点から睡眠の質を向上させていく方法をご紹介していきます。
井上敦子
『抜く』スキルを育てるヨガ
力を入れることは得意だけれど、力を抜くことは苦手。頭を使うことは得意だけれど、頭を空っぽにすることは苦手。頑張ることは得意だけれど、手を抜くことは苦手。睡眠に悩みを抱える方の多くは、そんな特徴があるように思います。考えてみれば学校でも会社の新人研修でも、『入れ方』に関してはたっぷり教わったけれど、『抜き方』に関してはほとんど学ばなかった(1976年日本生まれの私の場合)。そんな社会的背景も手伝ってか、力を入れたり頑張ることの方がリラックスしたり休むことより大事なのだと、知らず知らずに意識下にインプットされている方も多いのではないでしょうか。
ヨガの練習の場においても、力を抜くことが苦手な方を多くみかけます。特に動くヨガの練習(アーサナの練習)の場合、それは顕著に表面化します。『抜く』ことが苦手なタイプの方は、練習を始めて間もない頃は肩が上がり、呼吸が浅く、全身に力を込めた状態で力任せに動くことが多い。結果的に、必要以上に疲労してしまう。でも、ヨガの練習を続けていくうちに、不思議と『抜くスキル』が身についていくのです。非効率だった動きが効率的になり、力任せに動いていた動きに柔らかさが出てくる。それは、素晴らしい連鎖の始まりです。
身体の力みが取れることで呼吸が深くなる⇒呼吸が深くなるからリラックスしやすくなる⇒リラックスするから良く眠れるようになる⇒良く眠れるから仕事も精力的にこなせるようになる、といった具合に、『抜くスキル』が身につくことによって、日常生活にも良い影響が及んでいきます。
緊張を知っているから抜くことができる
かといって、緊張が悪者かというとそういう訳ではありません。緊張もストレスも生きていく上で必要不可欠なもの。ただ、それが『強すぎる』ということが問題なのです。ヨガの練習で緊張を『抜くスキル』が身につくのは、リラックスの反対側にある緊張の状態を知っているから。どちらが良い悪い、という観点ではなく、ちょうど心地の良いバランスの取れた状態を探っていくのがヨガの練習です。
私のクラスでは、リラックス系のクラスだったとしても比較的強めなアーサナを取り入れています。リラックスを目的に置いたとき、反対側にある緊張を作り出すことがリラックスへの近道になる場合が多いからです。筋肉の緊張は弛緩を手伝ってくれるし、ある程度アクティブに動いた方が疲労は抜けやすいものです。逆説のようにも聞こえますが、リラックスを認識することは同時に、緊張を認識することでもあるのです。そういった意味でも、緊張を敵視する必要はないのだといえます。
リラックスに向かうヨガの練習って?
では、緊張を『抜く』ためには、どのようなヨガの練習をしていけば良いのでしょうか?どんな練習であってもヨガの練習であれば結果的にリラックスに向かうので、これでなくてはいけないという決まりはありません。すでにヨガの練習をされている方は、その方向性が誤った方向に進まないようにだけ注意します。アーサナの練習の場合、最後のリラックスのポーズ=シャヴァアーサナを省かないようにしましょう。ついついシャヴァアーサナの時間が短くなってしまう、という声をよく聞きますが、最低でも5分はシャヴァアーサナに時間を使います。たとえ落ち着かなくても、力を抜く練習の一環だと認識してみて下さい。
そしてぜひ、ヨガニードラと瞑想の練習を取り入れましょう。アーサナは身体の緊張を解放する練習として優れています。それに比べてヨガニードラや瞑想は、心や感情の緊張を解放することが得意です。総合的に練習を深めることが、緊張を抜くスキルを上げていきます。日本では、身体を動かす=ヨガの練習という概念が強いですが、ヨガニードラや瞑想の練習を試みることで、心や感情といった目に見えない部分の緊張も抜いていくことが出来ます。ぜひ総合的なヨガの練習で『抜く』スキルを身に付け、より心地の良い睡眠と生活を実現させていって下さい。
15年間の会社員生活を経てヨガ講師に転身。不眠症をヨガで克服した経験を持つ。リラックスが苦手だった経験から、ヨガニードラを通じてリラックスの本質を伝えるクラスを展開。週に8本のヨガニードラのレギュラークラスを持つ他、指導者養成講座やコラム執筆等ヨガニードラの普及に努めている。Instagram:@yoga_atsuko.inoue